刃物持って大暴れも、死の直前「人格豹変」の理由 終末期における「せん妄」は9割近くが経験する

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前述したとおり、せん妄には原因があります。その原因を突き止め、対処することでせん妄は改善していきます。私たち医療者は、せん妄の原因を3つに分けて考えており、それぞれ「準備因子」「直接因子」「促進因子」といっています。

準備因子とは、その人がせん妄になりやすい要素をもっているかどうかの因子です。具体的には、70歳以上の高齢であること、認知症や脳の病気があること、以前せん妄を起こしたことがあるなどです。

薬剤が要因になることも

直接因子は、せん妄を起こすきっかけとなるもののこと。まず薬剤。医療用麻薬、ベンゾジアゼピン系といわれる安定剤、睡眠薬などが多いです。次に、身体の状態です。感染を起こしたとき。脱水が起こったとき。さらには、肝臓、腎臓が悪くなったとき。脳転移や脳の血管障害などでも起こります。

最後の促進因子は、せん妄を促進する原因です。直接にはせん妄を起こしませんが、これらがあると、せん妄が悪化してしまいます。痛み、呼吸困難、便秘といった不快な症状がそれにあたります。環境の変化、感覚障害、精神的ストレスなども促進因子と考えられています。

一例を挙げて、せん妄はどのようにして発症するのか考えてみたいと思います。78歳のがん患者さんが、肺炎で入院しました。翌日、眠れないのでベンゾジアゼピン系の睡眠薬を服用したところ、病院にいることがわからなくなり、家に帰ろうとして看護師に引き止められました。

この場合、まず患者さんが高齢であることが準備因子です。そして肺炎という身体の状態、睡眠薬という薬剤の服用が直接因子です。入院するという環境の変化は促進因子となります。これらの因子が関わることで、せん妄が起こったと考えられます。

この患者さんについては、肺炎の治療をし、せん妄を起こしやすいベンゾジアゼピン系睡眠薬から、せん妄を起こしにくい睡眠薬に変更して、入院生活に慣れることで落ち着いてきました。

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