刃物持って大暴れも、死の直前「人格豹変」の理由 終末期における「せん妄」は9割近くが経験する
場合によっては、せん妄に対する医療者の認識不足が原因で、患者さんとそのご家族がつらい思いをされることもあります。もし、がんの進行が悪化している状態で、おかしな言動を取るようになったとしても、医療者から何の説明もないこともあるかもしれません。
でも、本稿を読まれたみなさんは「せん妄」だとおわかりになりますよね。ですから、患者さんの言動に対して否定するようなことを言うのではなく、「不思議だね、でもみんなそばにいるから大丈夫だよ」などと言って安心させてあげてください。
実際に、正しい診断ができていなかったと思われる患者さんが、ホスピスでの治療によって正常な意識に戻った例もあります。
80代の男性の患者さんで、前立腺がんで骨転移があり、抗がん剤治療をしていましたが、病状が進行して治療ができない状態になったので、ご本人とご家族の希望でホスピスに入院しました。入院時はほぼ寝たきりで、食事もほとんど取れず、意識もかなり低下しており、会話も成立しないような状態でした。
1週間の治療で意識は正常に
娘さんは「前の主治医からは残された時間は1〜2週間くらいだろうと説明を受けており、覚悟はしています」と話されました。画像や検査データを確認したところ、がんの進行は思ったほどではないように見受けられました。しかし、電解質の検査データ、特にカルシウムの値が異常で、それが原因でせん妄になっているのでは、と予測を立てました。
そうお伝えすると、娘さんは「じつは前の病院で夜中に刃物を持って暴れたので、警察も呼ばれて大騒ぎになったんです。それでもうこれ以上は入院させられないと言われ、ホスピスを紹介されました」とのこと。
私は前の病院からの申し送りがなかったので驚きましたが、ご家族に「患者さんは、がんで身体のバランスが崩れ、それが原因でせん妄という精神症状になっている可能性があります。前の病院で暴れたのも、その症状かもしれません。もし治療ができるなら、患者さんの症状は回復する可能性もあります」とお伝えしました。
その後、電解質バランスを整える治療を行ったところ、1週間くらいで患者さんの意識は正常に戻っていきました。
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