福島・双葉病院「39人死亡」避難は正しかったのか 「災害時の患者避難の死亡リスク」を医師が検証
2011年3月11日、東日本大震災で起こった福島第一原発事故により、政府は福島第一原発から半径20km以内の住民に対して、避難命令を発出しました。これにより入院患者や障害者、施設に入所している高齢者などを含むすべての住民が避難を余儀なくされました。当時、「双葉病院で多くの患者が取り残され、20人以上の患者が死亡した」という、衝撃的な報道がなされたことを覚えている方も多いと思います。
命が助かるための避難なのに
入院患者などの災害弱者にとって、“避難する”ということは身体的にも精神的にも負担が大きく、避難をきっかけに身体に不調をきたし、結果的に亡くなる方がいます。
一方で、屋内退避など“避難しない”ことを選んでも死亡リスクがあることが近年指摘されており、このため「災害時に病院や介護施設で避難すべきか」という意思決定をより困難にしています。
筆者は福島第一原発から5km圏内にある3つの病院(双葉病院、双葉厚生病院、福島県立大野病院)について、関係者へインタビューを行いました。双葉病院では40人近くの患者が避難をきっかけに亡くなっています。
命が助かるための避難であるにもかかわらず、なぜ多くの入院患者が亡くなってしまったのか。どうすればそれを減らせるのか。今わかっていることをお伝えしたいと思います。
まず、3病院の避難の流れを紹介します。
■双葉病院
双葉病院は精神科を中心に、医療的なケアはそれほど必要ないけれど長期入院が必要な慢性期の患者を多く診ていた病院です。震災当時は338人が入院していました。地震の揺れによる建物への被害は軽微でしたが、電気、水道、ガスといったインフラがすべて止まりました。
3月12日午前5時44分、政府が福島第一原発から10km圏内の住民に避難指示を出したため、同日午後には病院長が朝のうちに自治体に依頼した観光バスで、歩くことができる患者209人を避難させました。避難に携わったあるスタッフは、「バスに乗せるまでと、降りるときの人手は本当に足りませんでした。患者さんたちも違うバスのほうに間違えて乗ってしまって……」と証言しています。
その一方で、病院は福島県警、双葉消防署、自衛隊などに患者の輸送支援の調整を依頼しましたが、結果としては受け入れられず、インフラが寸断された状態で継続的な医療を提供する状況に陥りました。
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