福島・双葉病院「39人死亡」避難は正しかったのか 「災害時の患者避難の死亡リスク」を医師が検証

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

福島第一原発から半径5km以内にある3つの病院を比較すると、福島県立大野病院では30分以内にすべての患者の避難が完了しましたが、双葉病院では約83時間、双葉厚生病院では約24時間の時間を要しました。その結果、双葉病院では39人(11.5%)、双葉厚生病院では4人(2.9%)の入院患者が避難中または避難直後に死亡しました。

双葉厚生病院は100人を超える入院患者がいながら、組織的な対応により患者の負担を最小限に抑え、24時間以内に避難を完了させることができました。それにもかかわらず、避難完了までに4人の患者が死亡したことは、重症患者にとって病院避難が身体的・精神的にどれほど大きい負担であるかを物語っています。

避難を原因とする入院患者の死亡は、死亡時期によって「避難中および避難直後の超急性期」と「避難後一定期間続く亜急性期」に分類できます。

超急性期に死亡するケースは医療依存度が高い患者で、具体的には集中治療が必要な重症者、寝たきりで全介助が必要な患者、末期がんなど終末期治療を受けている患者などが挙げられます。

一方、亜急性期に死亡するケースは医療依存度が高くないけれど、介護施設などで比較的介助を多く受けているような方です。避難により施設を移動したことをきっかけに医師・看護師や介護士の引き継ぎがうまくいかず、ケアの内容が変わったり、環境変化で過度なストレスがかかったりして、亡くなってしまうというイメージです。

避難中の死亡の大きな要因

なぜ原発近くの病院で多くの患者が亡くなってしまったのか。その回答としては、「避難中および避難直後では人手不足とインフラの停止により、医療依存度が高い患者に対する医療レベルを維持できなかったこと」、さらに「搬送手段が確保できなかったこと」が大きな要因であったと考えられます。

未曾有の災害の場合、個別の病院が作成した避難計画だけで対処するには無理があります。災害時には国や市町村が介入して医療施設の被災・避難状況を認識し、院外から避難の意思決定や支援をすることが大事で、これらについてより具体的に準備する必要があると思われました。

医療機関が“避難しない(屋内退避)“という選択肢もあります。そのためには、病院インフラの維持、医薬品、医療従事者などのリソースの確保、外部から情報を得るためのコミュニケーション手段の確保が必要不可欠だと考えます。

2022年秋、政府はエネルギー政策を転換し、再び原子力を1つの重要なエネルギー源として利用することを表明しました。福島第一原発事故のような悲劇を二度と起こさない対策が肝要です。

ハインリッヒの法則に従えば、一定の確率で事故が起こることは想定なければなりません。事故は起こさないように可能な限り努力し、起きてしまったときは被害が最小限になるように準備もしておくという姿勢が必要です。政府と電力会社には福島第一原発事故を反省し、患者避難対策に惜しみない力を注いでいただきたいと思います。

澤野 豊明 ときわ会常磐病院外科

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

さわの とよあき / Toyoaki Sawano

1990年神奈川県横浜市生まれ。医師・医学博士。2008年横浜高校卒。2014年千葉大学医学部卒。2022年福島県立医科大学・大学院医学研究科卒。2014年に医学部を卒業後から東日本大震災および福島第一原発事故の被災地である福島県南相馬市で医師として勤務を始め、以降消化器外科医として被災地で臨床医をしながら、福島県内で放射線災害後の健康影響について研究を続けている。消化器外科医としての専門は胃、大腸などの消化管手術。研究者としての専門は、放射線災害時の健康弱者の健康問題全般と医療施設における避難。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事