家が売れないと嘆く人が知らない「業界の裏事情」 公平性に乏しい「不動産の商習慣」再考が必要だ

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不動産仲介会社が両手取引のメリットを享受するには、買主も自社で見つけてくる必要がある。売主の意向を優先することをせず、預かった不動産をまずは自社の顧客に紹介する。自社サイトへの掲載や周辺へのチラシの配布など、とにかく自社から買ってくれる相手を探すための活動に重きをおくのである。

預かった物件の情報を広く公開せず、片手取引をうけつけないような営業活動は業界で「囲い込み」と呼ばれている。「囲い込み」は売主にとっては売却のチャンスを損なう行為でもあり、取引における不公平さが際立つ残念な活動でもあると言えるだろう。

そこで、取引における公正性の確保を目的に指定流通機構「レインズ」への登録が定められている。媒介契約の締結後、不動産仲介会社がデータベースサイトである「レインズ」に不動産情報を登録しなければならない。

「レインズ」に登録することで、業界全体で物件情報の共有が可能になる。不動産情報がオープンになり、幅広く内見や取引申し込みを受けられるというわけだ。

レインズに載せても…

ところが実際は、公正性が担保されているとまでは言い切れない。例えばレインズに登録された情報を閲覧した他の不動産仲介会社から「当社の顧客が興味を持っているので、ぜひ内見させてほしい」と問い合わせがあったとしよう。しかし登録した仲介会社は、「売主の都合がつかない」などと曖昧に濁し、結果的に「囲い込み」と同様の行為を行っている場合もある。

またレインズには「広告掲載区分」という項目がある。この項目が「可」であれば、登録した不動産仲介会社以外も広告を展開することができる。しかしながら、レインズで掲載される不動産の9割近くが「広告掲載区分」が「不可」のものだ。

他の不動産仲介会社が該当物件を気に入り、取引を斡旋しようとしても広告展開はできない。物件が「売れ残っている」「買い手がつかない」のではないのだ。もともと契約者不動産仲介会社の「他社に売りたくない」=両手取引で2倍の利益を得たいという思惑が見て取れる。

両手取引という形態そのものは、ケースバイケースでそう悪い物とは言えないかもしれない。しかし高く売りたい売主と安く買いたい買主、相反する立場の間に立つ人物(会社)が同じであることは公平であるとは言いがたい。売主はもちろん、本当に買いたいと思っているさまざまな買主にとっても大きな機会損失となってしまっている。

例えばアスリートにしても、チームやスポンサーとの契約や交渉をする際に代理人として「エージェント」を立てることが多い。競技者としてプロであっても、報酬や諸条件などの交渉ごとに関しては専門家ではないからだ。不動産も同じである。

売主の立場に立ち、的確なアドバイスを行う第三者として「不動産エージェント」が必要なのではないだろうか。そして「エージェント」は、不動産取引におけるプロの視点を持つ人材でなければならない。

次ページ売主に寄り添う「不動産エージェント」が求められている
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