石炭火力発電所の建設は是か非か、迫る審判の日 訴訟の焦点は「環境アセス簡略化」の正当性

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日本近海でも地球温暖化によって海の異変はすでに深刻になっている。

神奈川県葉山町に自宅があり、プロダイバーとして環境保護活動に取り組む武本匡弘さん(67歳)も原告に名前を連ねた。「海の中が取り返しのつかない状態になりつつあることを知ってもらいたかった」と武本さんはその理由について語った。

武本さんによれば、「日本近海でも海水温の上昇は深刻で、全国各地の海で『磯枯れ』『磯焼け』が広範囲にわたっている。これは本来、あるべきはずの海藻が磯などから消滅する海の砂漠化現象で、生態系の破壊を意味する」。

海藻が繁茂していた江の島の海(写真左。2012年2月撮影、水温13度)と海藻が消滅し、岩肌だらけの江の島の海(写真右。2020年3月撮影、水温17度)(写真:武本匡弘氏提供)

「神奈川県の江の島では10年ほど前であれば海藻が水面から見えるほど繁茂していた海が一変し、今では海藻は激減し、岩肌だらけになっている」と武本さんは指摘する(上写真参照)。2012年2月には13度だった海水温が2020年3月には17度まで上昇していた。海水温の上昇とともに、コンブ、ヒジキ、ワカメなど沿岸域で育つ海藻類の生育環境が破壊される一方、それらを捕食する魚が年間を通して食餌活動をするようになったため、海藻類の消滅につながった可能性が高いことが水産試験場などの専門家によって指摘されている。

CO2排出量は県内の1割に相当

「発電所が立地する東京湾は、相模湾と比べると海水温の上昇幅が若干小さいようだが、程度問題に過ぎない。温排水が流されたり、温暖化でさらに海水温が上がっていくことで、生態系の破壊は取り返しがつかなくなる」と武本さんは危惧する。

横須賀火力発電所から新たに排出されるCO2の総量は年間約726万トン。これは神奈川県の排出総量約6622万トン(2019年)の1割以上に相当する。

原告弁護団長の小島延夫弁護士は「ヨーロッパを中心に、政府にCO2排出削減対策の強化や石炭火力発電所の操業停止を命じる判決が相次いでいる。石炭火力発電所を新たに作ることは世界の流れに逆行している」と語る。そのうえで、「再生可能エネルギーの活用など、代替策は他にもある。それらの方策を含めて比較検討せずに石炭火力に固執する姿勢は、環境アセス法の趣旨にも反している」(小島弁護士)。

なお、被告である国は環境アセスのやり方に問題はないなどとして、原告の訴えを却下するように求めている。JERAは訴訟の当事者でないことなどを理由に、コメントをしていない。

今回、訴訟を起こした原告48人の年代は10代から80代に及ぶ。「未来への責任」に焦点を当てた訴訟でどのような判断が出されるか。日本のみならず、世界からも注目が集まるはずだ。

岡田 広行 東洋経済 解説部コラムニスト

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おかだ ひろゆき / Hiroyuki Okada

1966年10月生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1990年、東洋経済新報社入社。産業部、『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、企業情報部などを経て、現在、解説部コラムニスト。電力・ガス業界を担当し、エネルギー・環境問題について執筆するほか、2011年3月の東日本大震災発生以来、被災地の取材も続けている。著書に『被災弱者』(岩波新書)

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