また、往々にして、最初に取り組むべき別の課題がある。気持ちのうえで、過去の間違いは、過去の間違いとして切り離すことだ。
過去は過去として計算する
シカゴ大学で教え始めてまもなく、大学の資金調達部門から協力を求められた。当然ながら、目的は資金を増やすことであり、わたしは何年か資金調達の行動経済学を学んできたので、二つ返事で引き受けた。
最初にわかったことの一つは、資金調達部門には立派なコールセンターがあったが、もう使われていない、ということだ。
理由を尋ねたところ、電話のほうが手紙より寄付金は集まるが、コストは手紙のほうが安いので、電話によるお願いは徐々にやめたのだという。どのようにその結論にたどり着いたのかを知りたくて、詳しく聞いたところ、電話1本あたりの平均総費用を計算していたことがわかった。
つまり、電話をかける学生を雇う費用に、ネットワーク化されたテレフォン・バンキング・システムの構築にかかった費用を足して、電話をかけた回数で割っていたのだ。
「なんということだ」
資金調達部門は、経済学で「埋没費用」あるいは「限界費用」で呼ばれる原則、つまり、過去に投じた資金は現在の合理的な判断に影響を与えるべきではない、という原則を無視していた。既に使った資金は取り戻させない「サンクコスト」だ。今問題なのは、次の1ドルのリターンだけだ。
資金調達部門にとって、テレフォン・バンキング・システムへの初期投資もサンクコストだった。初期にかかる1回限りの固定費だ。カネは既に使われ、取り戻すことはできない。
わたしは資金調達部のスタッフに、過去の支出はもう関係ないと伝えた。コールセンターのシステムは、経常経費に入っていないのだから、現在から将来にかけての計算から差し引くべきだ。
彼らの間違いはコールセンターに投資したことではなく、過去の投資を過去のものにしなかったことだった。経常費用を計算し直すと、電話1本あたりの費用が、手紙を出す費用を下回るまでに下がった。
さらに電話は、コストが安いだけでなく、寄付金を確保するのにより効果的であることもわかった。この結果、資金調達部はテレフォン・バンキング・システムを復活させ、学生を雇い、それまでよりずっと多くの資金を集めた。
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