保育園「遅刻に罰金科すと、さらに遅刻増えた」訳 社会規範の影響が予想しない結果を招くことも
罰金と補助金が強力に作用する前提条件
ヒトが成長していくにつれて学ぶ、合理的な損得計算以上に大切なことの1つは社会規範の尊重であり、人への思いやりや信頼関係を重視することである。人間のなかに自分の利益を最大化させる行動以上に社会規範が重要性をもつことは、ときに経済学者が予想しない結果を招く。
経済学では、政策の中心的ツールは、罰金と補助金である。抑制したい行動には罰金を科し、奨励したい行動には補助金を出す。実際、罰金を科すことで違法駐車はある程度減らすことができるし、現金の代わりにカードやスマホによる決済を奨励したければポイントなどの形でこれらに補助金を出すことが効果的だ。
経済学の常套句である「他の事情にして等しければ」という前提が満たされれば、罰金と補助金は、行動を抑制したり奨励したりするうえで強力に作用するはずだ。しかし、お金を渡したり、もらったりすることはヒトの判断の枠組みに重要な変化をもたらす。それは、他の事情にして等しければ、という前提を破壊してしまう。
そのことをわかりやすく示したのが、イスラエル・ハイファの保育園10カ所で「子どもを迎えに来る保護者の遅刻」という問題に取り組んだ経済学者たちの実験である。この研究結果は、いろいろなところでひとつの解釈に沿って紹介されているが、ここでは、人間がエコン(合理的に満足を最大化しようとする人)であることを前提とした原論文のもうひとつの解釈と対比させて紹介したい。
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