保育園「遅刻に罰金科すと、さらに遅刻増えた」訳 社会規範の影響が予想しない結果を招くことも

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これらの保育園では、月謝1400シェケル(シェケルはイスラエルの通貨単位)で幼児を預かっていた。だが、16時の閉園時間までに迎えに来ない保護者がいる場合、保育士が残って子どもの面倒を見ざるをえない。どうすれば遅刻は減らせるか。

実験期間は20週。経済学者はまず4週間何もせず慎重に遅刻状況を観察した後、保育園をランダムに2つのグループに分けて対策の効果を比較した。

第1のグループには、第5週から16週まで閉園時間から10分以上遅刻した場合には、ひとり1回10シェケルの罰金を科した。ただし、第17週以降、罰金は撤廃された。

第2のグループにはこうした罰金政策はあえて導入しなかった。第2のグループの存在は、他の要因(例えば、天候や交通渋滞のせいで保護者の遅刻が増えた週があった、とか)が実験に影響を与えていないかを確かめるうえで役立つからだ。

保護者がエコンであれば、これまでタダだった遅刻に罰金が科せられることで、彼らは遅刻を減らすように努力するはずだ。

どうなっただろうか。結果を要約すると、以下のとおりである。

・2つのグループの最初4週の遅刻回数水準は、ほとんど同じだった
・罰金を導入しなかったグループでは、遅刻回数には大きな変動はなく安定していた
・罰金を導入したグループの遅刻回数は、罰金導入後に大幅に増加、導入しなかったグループの倍になった
・罰金を導入したグループの遅刻回数は、17週以降、罰金を撤廃したにもかかわらず減少しなかった

罰金を科すことによる遅刻の大幅な増加! これは経済学者の標準的予測とは正反対である。なぜ罰金制度は逆効果になったのだろうか。

この実験を行ったイスラエルの経済学者たちは、2つの解釈が成り立ちうる、としている。

1番目は「ゲーム理論」を使った解釈

メインストリームの経済学である「ゲームの理論」を使った解釈では、園児の保護者はエコンであり保育園経営者を相手に自己の利益を最大化する行動(ゲーム)をしている、と考える。

罰金導入前、保護者は保育園経営者がどの程度、遅刻に対し厳格に反応するかを知らないから警戒的に行動していた。しかし、罰金制度の導入により保育園の処罰行動を推測できるようになり、遅刻を増やしても退園などの厳罰を受けたりすることはない、との推測が可能になった。これにより、保護者は安心して遅刻を大幅に増やした、というのである。

著者たちはこの説明は、保護者は完全に合理的で完全に利己的というエコンの仮定を満たすもの、と説明している。

しかし、この論文の実験結果が注目されるとともに、しばしば引用され、目にすることが多いのは、論文の著者たちが、残念ながら、(ゲーム理論の説明より)インフォーマルになってしまうが、という前置きとともにおずおず持ち出した、といった感じの2番目の解釈の方だった。

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