「プラセボ効果で月に行けた」宇宙飛行士の顛末 かつての「大がかりな治療」、実はプラセボかも
たとえば1960年代と1970年代には、原因不明の慢性腹痛を治すために、健康な虫垂を切除する手術が流行った。1980年代と1990年代には、このような不可解な不定愁訴は腹腔内の癒着を絶てば緩和されると信じられた。
まったく同じ症状に対して、今日では腹壁の前皮神経を切断する手術が流行っていて、もう誰も癒着を断ち切ったり、健康的な虫垂を切除したりはしない。 外科医は、自分が治療した患者に良い結果が見られると、ほぼ自分の治療のおかげだと考えがちだ。
彼らはこう言うだろう。「患者が調子が悪いといってわたしの診察を受けに来たんだよ。それで、確実に効きそうな治療を施した。患者は、症状が治まったと満足して帰っていった。わたしの治療が功を奏したんだ。もちろん、予想どおりだがね」。
このような考え方や自分のやり方を過信した働き方を「自己奉仕バイアス」と呼ぶ。外科医は、手術を終えるたびに、患者の症状が緩和されたのは手術のおかげなのか、それとも手術とは無関係なのかを自問したほうがいいだろう。
症状が勝手に消えたのではないか? 症状がぶり返したものの、患者が診察に来ないだけではないか? 治療の真価をはかる唯一の方法は、患者と外科医という一対一の関係から距離を置くことだ。手術の真価を決めるのは、同じ症状のために同じ手術を受けた大勢の患者を客観的に評価してからでなければならない。
さらに、できれば複数の病院のさまざまな医師がおこなった手術を検証するのが望ましい。現代の外科医学では、そうした結果に基づいて、手術の真価が国内および国際的なガイドラインに反映される。新たな患者の結果から新しい洞察が得られるため、ガイドラインは定期的に見直さなければならない。
「プラセボ」のおかげで月面着陸できた
12人の男たちが月面に立った――ニール・アームストロング、バズ・オルドリン、ピート・コンラッド、アラン・ビーン、アラン・B・シェパード、エドガー・ミッチェル、デイヴィッド・スコット、ジェームズ・アーウィン、ジョン・ヤング、チャールズ・デューク、ハリソン・シュミット、 ユージン・サーナン。
彼らのなかで、シェパードは最年長だった。内リンパ囊開放術を受けたシェパードが、宇宙滞在中にメニエール病の発作に襲われたらどうなっていたか想像してみてほしい。ヘルメットを被ったまま嘔吐したら、窒息死する可能性があった。
アポロ13号の事故のあとにそんな事態になったら、月面着陸というミッションも終止符を打たれていただろう。地球に帰還後に、彼がメニエール病を再発したかどうかはわからない。シェパードは1998年に白血病で亡くなった。
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