「人の命に値段をつける」難題に挑む弁護士の苦悩 「ワース」が描くテロ被害者への補償金の在り方

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キートンが演じるのは、政府が被害者と遺族を救済するために立ち上げた補償基金プログラムの特別管理人となる弁護士のケン・ファインバーグ。厳格な数式にこだわるゆえに“計算マシン”と呼ばれ、調停のプロを自認していたファインバーグは、収入に応じた独自の計算式にのっとって補償金額を算出する方針を打ち出した。

だが、“公正さ”よりも、まずは”基金を成立させること””前に進ませること”を優先させたために、“持たざる者”への目配せはなく、被害者や遺族たちの個々の問題には目をつぶり、一切の例外を認めないという杓子(しゃくし)定規的なものだった。当然ながら被害者や遺族たちの猛烈な反発をくらうことになるが、被害者や遺族を説得しなければ、彼らに次々と訴訟を起こされ、アメリカの経済が破綻しかねない。

本来なら約7000人全員に同じ金額を給付することができれば話は早いのだが、テロ被害者の中には企業の重役をはじめとした高所得者も多数おり、所得に応じた補償をしなければ、彼らから提訴されることにもなりかねない。その声を押し切って平等な給付を強行すれば、補償基金の計画自体が白紙にされてしまう恐れもある。一家の稼ぎ手を失い、遺(のこ)された者たちの今後の暮らしのためにも、補償を届けられなくなることは避けなければならない。

観客も道徳観や倫理観に揺さぶられる

遺族との面談を通じて、彼らにもそれぞれの事情があり、一筋縄ではいかないことを知るファインバーグたち。だがそこから目を背けることは、道義的に許されることなのか。ファインバーグ率いるチームは、そんな答えの出ない堂々巡りの矛盾に苦しむことになるが、それは同時に映画を鑑賞している観客もまた、道徳観や倫理観が揺さぶられることになる。

約7000人の対象者のうち80%の賛同を得ることを目標とするチームの作業が停滞するなかで、ファインバーグの提案に反対の声をあげる遺族たちの声は日に日に高まっていく。プログラム申請の最終期限となる2003年12月22日が刻一刻と迫るなか、苦境に立たされたファインバーグは大きな決断を下す――。

本作のメガホンをとるサラ・コランジェロ監督は「この脚本に内在する緊張感、つまり損失を数値として算出する合理性と、無数の個人的な悲劇による心の傷がどのようにぶつかり合うかを探りたかった。私にとって本作は、1人の男が不信感を捨てて寛大な心を手に入れるまでの道のりを描いたものだ」と本作に込めた思いを語る。

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