百貨店「つぶれる街」「生き残る街」の決定的な差 地方百貨店の運命を左右する公共交通網
浜松や静岡は路面電車ではないのだが、遠州鉄道、静岡鉄道という民鉄が市内と郊外を10分間隔という頻度でつないでいる。こうした都市の中でも、300億~400億円規模の百貨店が生き残っている広島、熊本、岡山、鹿児島、松山などは路面電車網が充実しており、中心市街地のにぎわいに大いに貢献している。
路線バスは利用方法が複雑で予習が求められるが、路面電車は観光客にも理解しやすく、その利便性はかなり高い。路面電車を残しているとは、中心市街地を守るために、公共交通への投資をあきらめなかった、という意思表示だと解釈できる。公共交通網の維持が、中心市街地の衰退に歯止めをかけ、そのおかげで百貨店の存在感が保たれたのだ。地方百貨店と中心市街地とは、公共交通の維持を前提とした、運命共同体であるといってもいいだろう。
クルマ社会化した地方都市にとって、高齢化の進行に伴う免許返納の広がりと「買い物難民」の増加は、大きな悩みごとになっている。そのため、中心市街地を軸に公共交通網の中で暮らす人を増やしていこうとする、いわゆる「コンパクトシティ」という考え方が広がっている。
そんな中で、栃木県宇都宮市は市内公共交通の拡充を目指して、JR宇都宮駅東口と隣接の芳賀町を結ぶLRT(次世代型路面電車システム)を新たに整備中で、2023年には開業する段階にまでこぎつけた。2030年代前半には、東武宇都宮駅(東武宇都宮百貨店がある)のあるJR宇都宮駅西口方面にも延伸が計画されているようであり、LRTによる公共交通機能の再建ができるかどうか、大いに注目している。
コンパクトシティ化実現は地方百貨店の生存の条件か
一方で、大東建託賃貸未来研究所の調査によれば、郊外型大型ショッピングモールがある市町村のほうが、ない市町村より人口減少率が低いという傾向もあるようで、コンパクトシティが望ましいか否か、自治体の判断は難しいようだ。
実際、地方では高齢者ドライバーも多く運転しており、大半の住民がクルマを主要な移動手段としているため、郊外の大型ショッピングモールが今や、地域にとって必要不可欠な存在となっている。
しかし、中心市街地の存在感が残る街に立地している地方百貨店は、この機能を守るために積極的に公共交通網の維持、防衛に協力することが生き残る条件となるだろう。そのためにも、自治体、中心市街地関係者、百貨店は、街の中心に来てもらうための目的作りを真剣に考え直す必要がある。
地方百貨店は、公共交通網の維持と、街に来てもらう目的作りをあきらめずに取り組むことで、自らがどんな施設として生きていくべきか(それは商業とは限らない)が見えてくるかもしれない。
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