世界一のレストラン「ノーマ閉店」が与えた衝撃 過酷な労働と激しい職場文化の高級店は限界

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ノーマではその後料理に多く発酵を用いるようになる。スカンジナビア半島で越冬に欠かせない調理法だった発酵の技術を用いた料理は、世界の高級店で発酵調味料などが多用されるさきがけとなった。新北欧料理は、フランス料理のような強固な料理体系を持つことはなく、ノーマ開業から20年間で大きく変化した。

ノーマは、日本とはこれまで数多くの接点がある。

ノーマがコペンハーゲンの店を一時的に閉めて日本に「移転」したのは2016年。マンダリン・オリエンタルホテル東京で、2カ月間の期間限定営業を行った。このとき日本で未知の素材を用いたメニューの開発に挑むレゼピたちの舞台裏は、映画(「ノーマ東京 世界一のレストランが日本にやって来た」2016)にもなった。

2018年にはノーマの姉妹店「イヌア(inua)」が東京・飯田橋に開業(2021年に閉店)。

2023年3月から10週間は、「noma Kyoto」と題してエースホテル京都で期間限定営業が決まっている。予約は開始日にすべて埋まった。

閉店報道から読み解けること

2年間のコロナ禍による休業期間を経て今も変わらず予約困難店であるノーマが、なぜ今回、通常営業を終えることになったのだろうか。

公式サイトの告知と同じ日に出たアメリカ新聞大手ニューヨーク・タイムズ(NYT)の記事にいくつかの理由が示されていた。記事によると、レゼピがNYT紙に対して「過酷な労働時間と激しい職場文化を持つ高級店は限界点に達している(“It’s unsustainable.<持続不可能>”)」と語ったという。

3つのポイントにわけてこの問題を整理したい。

① 現在の営業形態が迎えた「限界」

現在、ノーマをはじめ世界的に有名な高級飲食店では、研修生を無給で受け入れる例が少なくない。実力がものをいう厨房では、能力が認められれば正社員になるのも不可能ではないが、彼らの多くは草花をちぎったり料理のパーツを作ったりするだけという単純作業に従事することが多い。

2018年8月の料理。ベジタブルシーズンで野菜のみのコース。1枚ずつ摘まれた小さな葉を皿の中に何枚も均等に配置する。人手がたくさんないとできない料理だ(筆者撮影)

そしてその労働は無給かつ長時間労働だ(NYTの記事では16時間勤務は日常的だとある)。同記事でインタビューに答えているノーマの元研修生は、仕事中に笑うことを禁じられていたとも語っている。

彼らがそうまでして無給の長時間労働をいとわないのは、有名店での経歴が、その後の料理人人生のキャリアで有利に働くからだ。筆者が初めてノーマを訪れた2012年、ダイニングの2階ではディナーの下ごしらえが行われていた。大きなテーブルを四方から取り囲むように立った20人ほどの若い従業員が、黙々と葉物をむしっていた光景を思い出す。

ノーマのキッチン。料理の仕上げは客席のすぐわきで行われる(2018年・筆者撮影)

これらの実態が今になって問題になってきたのはなぜだろうか。それは労働者がSNSなどでわずかでも声をあげるようになったことや、北米の超高級店を舞台にした「ザ・メニュー」(2022)などの映画を通して、厨房の実情が一般にも関心がもたれるようになったことがあげられるだろう。

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