ガストの「24時間営業復活」に見る本質的な課題 チェーンで個店主義へのシフトが容易ではない訳
こうした個店主義を行う際の、1つのロールモデルになるのが、通称「ドンキ」として知られるディスカウントストア「ドン・キホーテ」を運営するPPIH(パン・パシフィック・インターナショナル)だろう。PPIHは現在、33期連続増収という企業としては異例の業績を残している。
その躍進の秘訣になった一つの要因が、ドンキが採用する「権限委譲」である。これは、その店舗や売り場でなにを、どのように売るのかを決定する権限をその店の店長や店員に大幅に持たせ、その地域の実情に合う店舗を作り出す仕組みである。いわば、究極の「個店主義」ともいえるのが、ドンキの「権限委譲」である。
ドンキの創業者である安田隆夫氏は、この権限委譲を一号店から実践し、それは現在PPIHを貫くDNAとして継承され続けている。そしてその結果として、ドンキは異例の収益を上げているのだ。それは、ある意味で「画一主義」に対する「個店主義」の強さを示しているともいえる。
筆者はこの「権限委譲」のシステムについて、拙著『ドンキにはなぜペンギンがいるのか』の取材の際に、PPIHの担当者に話を聞いたことがある。そのときの話で印象深かったのは、画一主義が浸透している企業において、この権限委譲を行うのには、その企業の仕組みそのものを大きく変更するような、いわば「血の滲むような改革」をしなければ成功しないだろう、という話であった。
また、ドンキがこの「個店主義」に成功しているのは、創業当時からこの「権限委譲」がDNAとして染み付いているからだとも付け加えていた。それぐらい、正反対である「画一主義」から「個店主義」へのシフトはきわめて難しいということなのである。
権限委譲に失敗した企業も当然ながら存在する
ファミレスとは業態が異なるが、かつて西武百貨店が「ショップマスター制」という制度を、当時のトップだった堤清二氏の主導の下で行ったことがある。これは、その売り場の商品に精通した担当者(ショップマスター)が、商品の売り方や仕入れの方法などをすべて自身で行うというものであり、ドンキの「権限委譲」と似たシステムである。しかし、ピラミッド型の組織が定着していた西武百貨店において、このようなシステム変更がもたらしたのは大きな混乱だったという(鈴木哲也著『セゾン 堤清二が見た未来』)。「個店主義」への挑戦の難しさがよくわかるだろう。
もちろん、ドンキほどの徹底した個店主義でなくても、今回のガストの政策において「個店主義」へのシフトが問題になるのは間違いない。コロナ禍ではさまざまな外部要因によって、なし崩し的に店舗ごとに営業時間が異なる状況が生まれていたが、自ら営業時間を決めていくことは、また話が違ってくるだろう。
一見すると何気ない「ガスト24時間営業復活」の問題には、実は日本のチェーンストアをめぐる本質的な課題が隠されているのである。
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