知らぬ間に食べている?食卓にひそむ"問題点" フードテックを享受する人が知らない「真実」
――畜産でも養殖でも構造がそっくりですね。
はい、命を「モノ」としてしかみず、「生産性」だけを物差しに、安く早く大量につくろうとすれば、「生態系や環境への負荷」「食べた人の健康への影響」「現場の労働者の安全や労働条件」という3つは、ないがしろにされてしまう。でも畜産や養殖自体が悪いのではないのです。その「手法」こそが問題だという気づきと、持続可能なやり方をする生産者を守る方向に舵をきろうとするもう一つの流れが、いま世界各地で広がり始めています。
「このテクノロジーを使えば飢餓が解決します」「環境に優しいエコ技術です」などの美辞麗句にはよくよく警戒せねばなりません。大量生産・大量消費のビジネスモデルを是とする、私たちの食の文明のおごりが変わらない限り、行きつく先は同じになるからです。
消費者の知らないところで進んでしまう
――問題が解決しているとはいえない状況にもかかわらず、近年なぜ各国でゲノム編集食品の規制緩和が一気に進んだのでしょうか。
巨大資本による「たゆまぬ努力」と、世界同時有事による追い風が大きいですね。企業が熱心にロビー活動して政治や行政に働きかければ、「予防原則」より「イノベーションファースト」のほうに法律は動きます。
いま日本でも複数の自治体で「ゲノム編集」食品開発が進み、京都府は国内外からバイオ企業を誘致する「フードテック・スマートバレー構想」を立ち上げました。日本は世界で初めてゲノム編集食品にゴーを出した国。「食」は国民の命にもかかわるのに、国会でまともな審議もなく、企業の望む形でどんどんルールが決められているのです。
だから私たちが今立ち止まって「食とは何か」を考えることが、この先の未来を変える、大きな力となるのではないでしょうか。
いまや国連もアグリビジネスに乗っ取られましたが、これは陰謀論でも何でもなく、より熱心に行政と政治家に働きかけたり、地域で行動を起こしたりするほうが現実を動かすという現実です。それはつまり、私たちだってできるということ。実は「食」は、個人が日常の中、足元から変化を起こせる分野なんですよ。
パンデミック、気候変動、ウクライナ侵攻などの世界的危機も、フードテックへの強い追い風となりました。「危機」を煽られて、私たちが不安や恐怖で思考停止している間に、安全性や環境負荷が十分に検証されないまま、一気に新しいテクノロジーが入ってきてしまう。
そのわかりやすい例の一つが培養母乳です。
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