知らぬ間に食べている?食卓にひそむ"問題点" フードテックを享受する人が知らない「真実」

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――ゲノム編集は、自然界で普通に起こっている遺伝子変異と変わらないという見解が一般的ですが。

「安全性の根拠」とされている考えですが、特定の塩基配列をねらって破壊したときの周囲への影響は、新しい技術ゆえに未知の部分が多いと指摘されています。

現に、国際的な学術雑誌『ネイチャー』に掲載された論文では、クリスパーキャス9を使った実験で、狙った部位やその周辺に望ましくない大きな変化が起きたり、染色体が損傷したりした事例などが報告されています。区別できないといわれますが、欧州ではゲノム編集による変異と、自然界で起きる変異の違いを検出する方法論についての論文も出てきました。

生物がもともと持っている遺伝子が破壊された結果、他の遺伝子が体内でどういう働きをするか、またゲノム編集生物が長期的に生態系や環境にどういう影響を与えるかなどは、まだまだ未知数なのです。

「安いサーモン」には理由がある

以前、取材した米アクアバウンティ・テクノロジーズ社が開発した「遺伝子組み換えサーモン」(すでに流通済み)の自然界への流出は、当時すでに欧米で大きな問題になっていました。この企業は最近も、水槽内のサーモンが“非人道的な密度”で育てられていることや、遺伝子操作で成長を早められ胃がポンッと破裂するケースの頻発などが内部告発されて、今も大きな批判を浴びています。

3年にわたる現場取材と膨大な資料から、“食の文明史的危機”を描き出した堤未果氏。2023年1月27日、書籍出版を記念した対談イベント「堤未果✕山極壽一『食が危ない!〜ゴリラの知恵が日本を救う〜』」をリアルとオンライン配信にて行う

近年、世界各地の共通認識として、何十万頭もの牛をぎゅうぎゅうに詰め込んだ工業型畜産は動物福祉によくない、抗生物質を大量に使うから耐性菌ができて危ない、牛の糞尿で地域の水も空気も汚染するから是正しよう、などの意識が高まってきていますよね。

ところが養殖の魚には、なぜかこの想像力が届いていません。例えば、日本のスーパーにあるチリ産サーモンは安いですが、安く大量生産されるものには、当然理由があり、ぎゅうぎゅう詰めの満員電車のような環境で養殖されています。餌には遺伝子組み換え大豆、密集した環境下では感染症になりやすいので、やはり大量の抗生物質が使われます。

私がかつて『ルポ貧困大国アメリカ』で取材した大規模な工業型畜産とまったく同じことが、サーモンでも起きていたのです。

アメリカの大規模畜産では、感染症になった家畜は欠陥品として排除されるか、ペットフードなど別の用途に回されます。でも大規模な養殖場では死んだ魚を1匹ずつ取り除くのは難しく、抗生物質漬けの魚の死体で水が強アルカリ性になってしまう。そこで他のサーモンが死なないようpHの調整に酸が投入される。そういう汚染水が自然界に流れて環境破壊を引き起こし、問題になっているのです。

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