認知症の母と暮らす脳科学者の私にわかったこと 変わってしまったと家族がショックを受ける理由

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このような行動を取られると、母が「他人の意図に無関心」で、「自分の好みしか考えていない」ようにどうしても見えるから、つい「ああ、母は、今までとは変わって、わがままになってしまった」と考えてしまう。

しかし、母は、病院の検査で、脳に入ってくるさまざまな情報を統合し、適切な注意を働かせるために重要な後頭頂皮質の活動が低下していると言われていた。

それなら自己中心的になってしまったというよりは、後頭頂皮質の問題で、単に拾える情報が少なくなって、見るべきものに注意を向けられず、「今は良いお寿司屋さんに来ているんだ」という状況把握ができなくて、相手の気持ちを汲みにくいだけなのかもしれなかった。状況に適切に注意が払えている時は、優しい言葉もかけてくれる可能性があり、他人に対する優しい感情自体が消えたわけではないのかもしれない。

また「初めてのお寿司屋さん」という、新奇な環境への不信感や、生ものの消化に関する体の問題もあるのかもしれず、「わがまま」なのではなくて、ただ「本当に食べられない」のかもしれない。

こういうことを家族が「こんなにやってあげているのに伝わらない」と思い始めると、キツくなる。「今までだったらこんなことはなかった」「母だったら私の気持ちを大事にしてくれるはずなのに大事にしてくれない」と、理不尽に耐えられなくなって、「母には何をやってあげても無駄だ」と絶望してしまうのである。

サリーとアン課題

他人のことはまず自分を通して理解する。しかし他人はそれだけでは理解しきれず、「自分=他人」という仮定であまり行きすぎるとうまくいかないことがある。

これについては、他人とのコミュニケーションが不得意な、自閉症の子供の研究が示唆的である。

自閉症の子供がなかなかクリアできるようにならないと言われている「サリーとアン課題」と呼ばれる課題がある。

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