認知症の母と暮らす脳科学者の私にわかったこと 変わってしまったと家族がショックを受ける理由

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サリーとアンが同じ部屋の中で遊んでいる。その部屋にはバスケットと段ボール箱とがある。今サリーが、バスケットの中に自分のおもちゃをしまって、その部屋を出ていった。今度はアンが、サリーがいない間に何を思ったか、そのおもちゃをバスケットから出して、段ボール箱に移してしまった。そしてサリーが帰ってきた。さて、今サリーはそのおもちゃで遊ぼうとして、バスケットと、段ボール箱、どちらの方を覗くだろうか?

これに答えるという課題である。

典型的に発達した大人は、バスケットと答えることが多い。――サリーは、アンが移し替えたことを知らないので、まだおもちゃはバスケットの中に入っていると思うはずだからだ。

しかし、自閉症の子供は、段ボール箱と答えることが多い。――今おもちゃは実際には段ボール箱に入っていることを、自閉症の子供自身は知っているので、サリーがおもちゃで遊びたいならば、段ボール箱を見るはずだと思ってしまう。自閉症の子供は、サリー自身はアンが移し替えたことを知らないこと、自分とサリーでは知っている内容が違うことを理解するのが難しいと考えられている。

つまり、他人のことが本当に理解できるようになるためには、他人のことを自分と同じと考えて想像してみながらも、自分と他人とは完全に同じ条件で生きているわけではないから、他人は自分とは別の知識、別の仮定を持っている可能性がある、ということを理解しなければならない。

典型的に発達した子供は、大体4歳くらいでこのサリーとアン課題に、大人と同じように「バスケット」と答えられるようになる。結局、発達のどこかの時点で、自分と他人とを切り離すことが、他人のことを深く理解できるようになるためには必要なのだ。

共感の脳活動

脳の中では、他人と自分とを同一視するのが基本ではあるのだが、人間は発達するに従って、本当に他人のことを理解するために、徐々に他人と自分とを切り離していかなければならない。

この切り離しは、家族など、親しい間柄であればあるほど、難しいのだと思われる。

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