アジア通貨危機以降は、各国政府が外貨準備の水準を高めようとしてアメリカの国債を購入した。中国は輸出主導で経済発展を続けるために人民元の為替レートが対ドルで上昇することを抑えようとして、大量の為替介入を行い大量の米国債を保有するようになった。ギリシャを発端とした債務危機やウクライナ問題で、欧州経済に対する不安が高まると、リスクを回避するためにより安全な資産としてアメリカの金融資産や不動産が購入された。世界各国がドル資産を購入し続けることで、アメリカの大幅な経常収支赤字・その他の国々の経常収支黒字という世界経済の構造は維持されてきた。
1971年にドルと金との交換を停止したニクソン・ショックや、1985年のプラザ合意による大幅なドルの下落など、ドルへの信認を揺るがす事件は何度もあった。これにもかかわらず世界はドルを国際的な取引に使い続けてきたが、それは結局ドルに代わるものがなかったからだ。
不均衡が拡大したら、いずれはドル安で修正される
ユーロが誕生した際には、基盤となる経済規模でも、金融市場の成熟度でも、ドルに対抗しうる通貨と考えられた。このため、外貨準備が米ドル一辺倒からユーロへと大きくシフトするなどして、それまでのようにドル資産が購入されなくなるのではないかという懸念が高まった。しかし、政府債務危機問題からユーロ圏の崩壊すら懸念される状況では、ユーロがドルの地位を脅かす可能性は低いとみなされるようになっている。
現時点でドルに対抗できる通貨となる可能性を持っているのは、いずれ経済規模がアメリカを超えると予想されている中国の人民元だろう。しかし、国内金融市場の整備や人民元の国際的取引に関する規制の緩和など、多くの課題が残っており、国際的な取引拡大のためにはかなりの時間がかかると予想されている。
世界経済は、代わりになるものがないという消極的な理由でドルを使い続けるという状況が続くだろう。しかし、米国経済が巨大だとは言っても、大幅な経常収支赤字を続けて、対外純債務が名目GDP比で上昇していけば、いずれ返済能力に対する不安が発生するだろう。世界経済がアメリカの需要に依存してバランスを維持し、アメリカが大幅な経常収支赤字を出し続けるというグローバルな不均衡は、どこかでプラザ合意のような大幅なドル安によって修正されることになる可能性が高いのではないか。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら