米国はリーマンショック後の低迷を抜け出して、QE3(量的緩和政策第三弾)の規模縮小を着々と進めている。一方、欧州は経済は回復しているものの消費者物価上昇率は低水準で3月も前年比0.5%となりデフレに陥る懸念も指摘されている。日本も失われた20年とも言われるほど長期にわたる低迷を続けてきた。米国は大胆な金融政策を実行したことによって、短期間でリーマンショック後の経済危機から回復し得たように見える。しかし、米国の金融政策が成功をおさめたと言えるかどうかは、もう少し長期に見る必要がある。
米国FRB(連邦準備制度理事会)は、雇用の最大化と価格の安定を目標としているが、金融政策はもっと幅広い問題に注意を向ける必要があるのではないだろうか。
物価上昇率と失業率はトレードオフの関係にある
中央銀行に課せられた雇用の最大化と物価の安定という課題を達成するのに適切な金融政策はどのようなものかを決めようとすると、二つの課題の矛盾にぶつかってしまう。「中央銀行は期待をコントロールできるのか(2013年12月10日)」でもご紹介した、フィリップス曲線は物価(あるいは賃金)上昇率と失業率の間に逆相関の関係があることを示すものだ。つまり、両者の間には、失業率を下げていくと物価上昇率が高まってしまう、というトレードオフの関係がある。
イエレン議長は、3月末にシカゴで行ったスピーチで、雇用の最大化と物価の安定は相矛盾する目的だったこともあるが、現在は経済と労働市場にスラック(供給余力)があるので、インフレのリスクを増大することなしに雇用の拡大ができる状況にあると考えている、と述べている。
賃金と物価の上昇率が低いことは、経済の中に多数の失業者がいたり、企業が稼働していない生産設備を抱えていたりするなど、経済の生産能力に対して現実の需要が不足していることの表れだ。財政政策や金融政策を使って景気を刺激しても、失業率低下や設備稼働率の上昇は起こるが、人手不足によって賃金が大きく上昇したり、市場の需給ひっ迫で物価上昇率が目標より高くなったりするまでには、まだ余裕があるとみているわけだ。
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