「部品不足」で社長が広報に指示した「真逆の対応」 「うちにはモノがないと書いてもらえ」の真意
そこで、一旦ハードディスクメーカーで良品と判定されて納品された部品であっても、国内工場に入荷した時点で全数再検査を行うことにしました。通常はサプライヤーとの信頼関係もあるため、一定数の抜き取り検査を行うだけです。これが全数検査ともなれば、途方もない作業工数アップになってしまいます。しかし、恐らくこの検査の効果もあったのでしょう。生産ラインを工場だけでなく、群馬にあるサービスセンターにまで拡大した非常時の態勢下でつくられたにもかかわらず、この世代のNECパソコンにHDDの品質問題は発生しませんでした。
「何が本当の危機なのか」を理解すること
こうして何とか会社を挙げて危機を乗り切り、NECブランドのパソコンは無事消費者の手元に届けられるようになりました。振り返って、この危機対応は「何が本当の危機なのか」を理解することの大切さをTさんに教えてもらった気がします。
確かに売るモノがないため株価は下がりましたが、それは在庫状態が回復すればまた戻るものです。一方で、ありもしないモノをあると嘘をついている会社だった、あるいはありあわせのもので品質が悪化したということで信頼を落としてしまっては、これは容易に回復しません。
実はこのときNECパーソナルコンピュータが直面していた「危機」とは、モノが調達できないという危機ではなく、「NECパーソナルコンピュータの生産体制、品質管理体制に対する誠実さを問われている」という危機だったのです。それが見通せていたからこそ、後に続く特殊な生産体制、品質の維持など、一貫した対応ができたのでしょう。そこまで先を読み、決断したTさんは、やはりリーダーとしてふさわしい危機対応をされたのだと、今になって思います。
ちなみに今回この記事を出すに当たり、Tさんの許しを得ようと連絡しました。すると「僕なんか、NECのパソコンの歴史に名を連ねる大先輩を差し置いて名前を出すような器じゃない」ということで、イニシャルならばということで了解をいただきました。
危機管理対応の広報といいますと、マニュアルやQ&Aを整備し、マスコミになるべく悪く書かれないようにすると考えがちでしょう。それはその通りなのですが、そのとき、本当に会社として守るべきものは何なのか、何を問われているのかについて、普段から備えておけと言われても、そこまで人間の脳は考えようとしません。私はこの経験を通して教えていただく結果になったのですが、広報たるもの、こうした点でも経営者に助言できるようになりたいものです。
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