「部品不足」で社長が広報に指示した「真逆の対応」 「うちにはモノがないと書いてもらえ」の真意
こうした産業界横断の問題が発生したとき、矢面に立つのはその業界のトッププレーヤーです。2番手以降の企業であれば、「その問題は業界を代表する◯◯社に聞いていただくのがよろしいかと」のような逃げも打てますが、NECパーソナルコンピュータはマスコミから業界を代表する企業と認めていただくべく日ごろから広報活動を行ってきましたから、こうした場合だけ「知りません」とは言えない立場にありました。
「社長、困りました。どうしましょう」――。当時の社長だったTさんのところに早速相談に行きます。一応こちらも広報の責任部署ですから、手ぶらというわけにはいきません。私の腹案は、とにかく「インパクトは少ない」といったコメントに徹して、大きなニュースになるのを避けるというものでした。ところが社長から出た一言は、とても意外なものでした。
「それはまずい。そんなニュースが出たら、モノがないとお客様に頭を下げている現場の営業マンを嘘つきにしてしまう。むしろ『NECはモノがない』とはっきり書いてもらいなさい。責任は私が取るので構わない!」
Tさんは若手社員に対しても「◯◯さん」と呼ぶ物腰の柔らかい人物だったのですが、このときは珍しく毅然とした態度で、ちょっとびっくりしたのを覚えています。社長の指示でもあり、決意のようなものを感じたので、マスコミには「モノが不足している」という状況を説明しました。
株価は少し下がったが…
結果的に、NECが生産調整をしているとのニュースがでかでかと新聞紙面を飾り、NEC関連の株価も少し下がってしまいました。正直そこまでインパクトのある記事になるとは想定していなかったので、広報としては「しくじった、あれはやはり『失言』だった」と唇をかんだ記憶があります。
ただ、この記事の結果、現場で頭を下げていた営業マンは「新聞にある通りです、何とか資材の調達を行っていますのでもう少し待ってください」というように、誠実な対応ができたと聞いています。
その後、NECパーソナルコンピュータはまずHDDを抜いた状態でパソコンを生産して、これを大量に日本国内の工場で在庫し、HDDが入荷され次第、組み込むという対応を行いました。肝心のHDDですが、今までと違うタイプの部品も調達せざるを得ませんでした。とはいえ、後に品質問題を起こしてしまっては、これはこれでNECブランドに対する信頼を裏切ってしまうことになります。
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