5年前に戻り生前の妻に会えた男、ひと時の幸せ 小説「思い出が消えないうちに」第2話全公開(5)

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「……で?」

「なに?」

「確かめに来たんでしょ?」

「あ、ああ」

「どう? やっぱ、老けちゃった?」

世津子は、

「よく見てね」

と、腰をかがめて、ギリギリまで轟木に顔を近づけた。

「どう?」

「老けてない」

「ホント?」

「ああ」

轟木の記憶にある世津子は、この年の春に亡くなっている。老けているはずがない。

「やった!」

世津子は無邪気に喜んだ。

「それで、何年後の私?」

「え?」

「老けを気にしてるのは、何年後の私なの?」

「ご、五年後」

世津子は腕組みをして、うーん、と唸った。

「……ってことは、今、ゲンちゃんは四十三歳か?」

「ああ」

「ゲンちゃんは少し老けたね?」

「うるせーよ」

「あはは」

世津子だけが幸せそうに声を出して笑っている。

そういえば……

轟木が深夜番組のレギュラーを勝ち取り、世津子に結婚を申し込んだのは、この日の九日前、十二月二十五日のクリスマスだった。

「顔に似合わずロマンチックなプロポーズだね」

と、世津子にはからかわれたが、轟木は、

「うるせーよ」

と、言いながら顔を赤くした。

「本当はなにをしに来たの?」

世津子は、幸せそうにほほえみながら、

「今すぐ返事してもいいんだけど、やっぱり、お父さんとお母さんにはゲンちゃんからプロポーズされたって報告してから返事をしたいのね、だから、返事はその時までお預け、ね?」
と言って、すぐに函館行きの飛行機を手配した。

世津子が轟木のプロポーズに返事をしたのが、東京に戻ってからの一月四日。つまり、この日の翌日である。

「世津子ちゃん……」

少し離れて二人のやりとりを見守っていたユカリが、世津子の背後から声をかけた。

その瞬間、世津子の顔から笑みが消えた。

「……わかってます」

世津子は、そう答えたあと、しばらく唇を噛んでうつむいていたが、フッと、勢いよく息を吐くと、

「で? 本当はなにをしに来たの?」

と、轟木に向かって笑顔でたずねた。

突然の質問に、轟木は目を瞬かせている。

「なんの話だよ?」

「なんの話って、とぼけてもダメだからね?」

「だから、なにを?」

「私を喜ばせるために来たんでしょ?」

世津子は腕組みをして、満足そうな笑みで轟木を見下ろした。

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