「……で?」
「なに?」
「確かめに来たんでしょ?」
「あ、ああ」
「どう? やっぱ、老けちゃった?」
世津子は、
「よく見てね」
と、腰をかがめて、ギリギリまで轟木に顔を近づけた。
「どう?」
「老けてない」
「ホント?」
「ああ」
轟木の記憶にある世津子は、この年の春に亡くなっている。老けているはずがない。
「やった!」
世津子は無邪気に喜んだ。
「それで、何年後の私?」
「え?」
「老けを気にしてるのは、何年後の私なの?」
「ご、五年後」
世津子は腕組みをして、うーん、と唸った。
「……ってことは、今、ゲンちゃんは四十三歳か?」
「ああ」
「ゲンちゃんは少し老けたね?」
「うるせーよ」
「あはは」
世津子だけが幸せそうに声を出して笑っている。
そういえば……
轟木が深夜番組のレギュラーを勝ち取り、世津子に結婚を申し込んだのは、この日の九日前、十二月二十五日のクリスマスだった。
「顔に似合わずロマンチックなプロポーズだね」
と、世津子にはからかわれたが、轟木は、
「うるせーよ」
と、言いながら顔を赤くした。
「本当はなにをしに来たの?」
世津子は、幸せそうにほほえみながら、
「今すぐ返事してもいいんだけど、やっぱり、お父さんとお母さんにはゲンちゃんからプロポーズされたって報告してから返事をしたいのね、だから、返事はその時までお預け、ね?」
と言って、すぐに函館行きの飛行機を手配した。
世津子が轟木のプロポーズに返事をしたのが、東京に戻ってからの一月四日。つまり、この日の翌日である。
「世津子ちゃん……」
少し離れて二人のやりとりを見守っていたユカリが、世津子の背後から声をかけた。
その瞬間、世津子の顔から笑みが消えた。
「……わかってます」
世津子は、そう答えたあと、しばらく唇を噛んでうつむいていたが、フッと、勢いよく息を吐くと、
「で? 本当はなにをしに来たの?」
と、轟木に向かって笑顔でたずねた。
突然の質問に、轟木は目を瞬かせている。
「なんの話だよ?」
「なんの話って、とぼけてもダメだからね?」
「だから、なにを?」
「私を喜ばせるために来たんでしょ?」
世津子は腕組みをして、満足そうな笑みで轟木を見下ろした。
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