5年前に戻り生前の妻に会えた男、ひと時の幸せ 小説「思い出が消えないうちに」第2話全公開(5)

✎ 1〜 ✎ 14 ✎ 15 ✎ 16 ✎ 最新
著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

そうやって轟木とユカリが世間話をしていると、やっと世津子が二人の輪の中に入って来た。

「どうしたのよ?」

「なにが?」

「なにが、じゃないでしょ? 突然現れたらびっくりするでしょ?」

と、世津子は頬をふくらませた。

「だからって、前もって知らせとくこともできねーだろ?」

「ま、そりゃそーだけど……」

「……なんか、あった?」

轟木の言い分が正しい。世津子は言いくるめられて、唇を尖らせた。

「未来から?」

ユカリがたずねる。

「ええ、まぁ」

「……なんか、あった?」

短いやり取りであったが、幼馴染の世津子は轟木の態度に暗い違和感を覚えたのだろう、心配そうに轟木の顔を覗き込んだ。

轟木にしてみれば、亡くなったはずの妻を目の前にしているのだ。戸惑わないはずがないし、まともに顔も見られずにいた。

(世津子……)

気を緩めると、目頭が熱くなる。

だが、世津子が亡くなったことを悟られるわけにはいかない。

「お前が、自分のこと『老けた、老けた』って言うから……」

轟木はあわてて嘘をついた。

「私が?」

「だったら俺が過去に戻って、本当に老けたかどうか見てきてやるよって」

「それ確認するために、わざわざ?」

「お前がしつこく『老けた、老けた』って言うからだろ?」

「え? あ、そう? なんか、ごめん……」

「いや、お前が謝っても仕方ないだろ?」

「あ、そっか」

「ったく……」

そう言って、二人は笑いあった。世津子にとってはいつもの、そして、轟木にとっては五年ぶりの談笑となった。そんな二人をユカリがじっと見つめている。

次ページ「確かめに来たんでしょ?」
関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事