信じられない出来事ではあったが、二美子はこう考えた。
幽霊が、呪いが本当の出来事であるならば、過去に戻るという話も本当に本当かもしれない。「呪い」を体験する事で「戻れるかもしれない」と半信半疑だった二美子の思いは、ほぼ「戻れる」という確信に変わっていた。
しかし、問題があった。過去に戻るには決められた席に座らなければならない、というルールがある。だが、その席には幽霊が座っている。話は通じない。無理矢理どかそうとすると呪われる。いったい、どうすればいいのか?
「待つしかないんです」
二美子の疑問を見透かしたように数の声が聞こえた。
「どういう事?」
「彼女はかならず一日に一回だけトイレに行くんで」
「幽霊なのにトイレ?」
「その隙に、座る」
二美子はじっと数の目を見据える。数は小さくうなずいた。これしか方法はないらしい。
幽霊がトイレに行くのかという二美子の疑問とも突っ込みともわからない問いかけは涼しい顔でスルーされた。
「待ちます! 待ちますよ!」
「……」
二美子は大きく深呼吸をした。掴んだわらを離すわけにはいかない。わらしべ長者なら、このわらを無駄にはしないはずだ。
「わかりました……待ちます! 待ちますよ!」
「ちなみに彼女に昼とか夜の区別はないんで」
「はいはい」
二美子はほとんどやけっぱちである。
「ここ何時まで?」
「一応二十時までですけど、待つというなら、ずっといてもらってもいいですよ」
「オッケー」
二美子は三つのテーブル席の真ん中にドカッと座り込んだ。ワンピースの女と向かい合わせになった。腕組みをして、鼻息荒く、
「やってやろうじゃないの!」
と言って、ワンピースの女をにらみつけた。ワンピースの女は相変わらず静かに小説を読んでいる。
「……」
数は小さくため息をついた。
カランコロン。
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