1週間前、彼氏と別れた彼女が過去に戻りたい心境 小説「コーヒーが冷めないうちに」第1話全公開(3)

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ワンピースの女は、突然、カッと目を見開き、二美子をにらみつけた。二美子は急に自分の体が何倍にも重くなったような感覚に襲われた。まるで掛け布団を何十枚も突然上から被せられたような感覚である。店内の照明は蝋燭の炎のように揺らめきながら暗くなり、どこからともなく亡霊の唸る不気味な声が店内に響き渡った。二美子は身動き一つとれず、膝を落とし、その場に四つん這いになった。

「ヤダ、なにこれ? なにこれ?」

何が起こっているのか、二美子にはサッパリわからない。

数はやれやれと少しあきれた表情でサラリと、

「呪いです」

と、告げた。二美子は呪いと聞いてすぐには理解できず、

「え?」

と、呻くように答えたが、どんどん重くなる見えない力に耐えきれず、ベタッと床にうつ伏せになってしまった。

「なに? え? これなに? なんなの?」

「呪いです……無理矢理どかそうとすると呪われるんです」

数はそう言うと、うつ伏せの二美子をそのままほったらかしにしてキッチンの奥へと姿を消した。うつ伏せの二美子にはキッチンに向かう数の姿は見えなかったが床面に片耳がピッタリくっついていたため、数の足音が離れていくのだけはハッキリわかった。二美子は全身に氷水をぶっかけられたような恐怖に襲われた。

「助けて! 助けてよ!」

「え? 噓でしょ? これ? どうなんの?」

なんの返答もない。体がブルブル震えだした。ワンピースの女は未だに恐ろしい顔で二美子をにらみつけている。さっきまでおとなしく本を読んでいた女とは別人のようだった。二美子はキッチンに向かって叫んだ。

「助けて! 助けてよ!」

その叫びが聞こえたのか、数はすんなり戻ってきた。二美子には見えないが、手にはコーヒーの入ったガラスのカラフェを持っている。

二美子は近づいてくる足音を聞きながら、もう何がなんだかよくわからなくなっていた。ルール、幽霊、呪い。混乱の極みである。しかも、助けてくれるのか、くれないのか、数からはなんの返事もない。二美子はもう一度大きな声で「助けて!」と叫びそうになった。

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