懐かしの「伝説深夜ドラマ」現在の隆盛に至る系譜 深夜ドラマは量、質ともプライム帯に匹敵へ

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今やプライム帯のドラマの数を上回るほどの本数が作られている深夜ドラマ。恋愛、グルメ、ミステリー、旅などジャンルもさまざまだ。TVerなどのサムネイルでは放送時間も関係なく横並びになるが、それを見ても深夜ドラマとプライム帯のドラマとの差はほとんど感じられない。数的にも質的にも深夜ドラマはプライム帯のドラマに並んでしまっているのだ。

それでもまだプライム帯では作りにくいテーマの一つが「ボーイズラブ(BL)」だろう。対して「おっさんずラブ」(テレ朝、2018年)のヒットをきっかけに、BLドラマは深夜枠の顔になりつつある。漫画原作ファンも絶賛した、西島秀俊と内野聖陽主演の「きのう何食べた?」(テレ東、2019年)や、赤楚衛二と町田啓太がまっすぐな恋愛を演じた「30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい」(テレ東、2020年)は、どちらも日常に軸足を置いた丁寧な心情描写が新鮮だった。

2021年には男子高校生同士の恋愛を描いた「美しい彼」(MBS)と「消えた初恋」(テレ朝)の2作が話題をさらった。さらに2022年4月にはMBSが1年限定でBLドラマに特化した「ドラマシャワー」枠を新設するなど、深夜のBLドラマ界はますます活況を呈している。

ゴールデン・プライム帯ではできないことをやろうという作り手の意識を強く感じるのが、2018年に新設されたNHK「よるドラ」枠(土曜23時30分〜)だ。LGBTQ+をテーマにした「腐女子、うっかりゲイに告る。」(2019年)、地下アイドルと推しの関係性の危うさを描いた「だから私は推しました」(2019年)、ワンオペ育児の問題提起をRPG仕立てで見せた「伝説のお母さん」(2020年)、自分の頭で物を考えることの重要性を説いた「ここは今から倫理です。」(2021年)、恋愛を必要としない“アセクシャル”をテーマにした「恋せぬふたり」(2022年)など。あくまでもエンタメとして社会問題と切り結ぶ作品の数々は、「新しいものを見ている」と感じさせてくれる。これぞ21世紀の深夜ドラマ、と言えるのではないだろうか。

2022年4月からは毎週月〜木22時45分からの15分帯ドラマという形に変わったが、コロナ禍に運送会社で働く人々の悲喜こもごもを描いた「あなたのブツが、ここに」や、食を挟んだ女同士の恋愛を描く「作りたい女と食べたい女」といったテーマ性と情感がうまく両立した作品を放送している。夜、諸々片づけて落ち着いた時間にひと息つきながら15分ドラマを見る。これもまた、新しい夜のドラマの楽しみ方だ。

岩根 彰子 フリーライター、『GALAC』編集委員

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いわね しょうこ / Shoko Iwane

1970年東京都生まれ。ライター。大学卒業後、編集プロダクション勤務を経てフリーに。インタビュー記事や映画評、単行本の編集・ライティングなどを手がける。

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