防衛増税も迷走「岸田政権」に今、決定的に足りぬ事 旧態依然の手法、さらなる失速は避けられない

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確かに、経済や社会保障などの通常の政策であれば、こうした政府・与党の論議を経て原案が国会に提出され、審議され、可決・成立されて実現していく。ただ、岸田首相も認める通り、国の行方を左右する「大転換」である。通常の予算案や法案とは異なる説明プロセスが求められるのは当然だ。とりわけ、国民に対して直接、訴える場が欠かせないのだ。

歴代の政権でも、1989年に消費税を導入した際の竹下登首相は「辻立ち」と称して、全国各地で社会保障の財源を確保するための消費税の必要性を説いた。竹下氏自身が消費税導入に伴う「懸念」を列挙して、政府が懸念解消のための対策を講じる考えを説明した。その粘り強い姿勢が野党にも伝わり、関連法案が成立したのである。

2005年に郵政民営化を実現した小泉純一郎首相は、竹中平蔵氏を郵政民営化担当相や総務相に起用して、民営化の意義や中身の説明を一手に担わせた。いわば「広告塔」である。竹中氏はテレビなどに積極的に出演し、国民に向かって立て板に水で解説。それが民営化関連法案の成立に大きく貢献した。

支持率は発足以来最低

岸田首相が「防衛政策の大転換」と言うなら、説明の仕方も「大転換」しなければならない。岸田首相がタウンミーティングなどに出席して国民と直接対話したり、外交・防衛政策に通じた「広告塔」役を設けて国民への説明を尽くしたりすべきなのに、そうした工夫は見られない。

国家安全保障戦略などの重要文書についても、最終決定の前に「中間報告」的な文書を公表して国民的な議論の素材を提供するやり方もあったが、そうした知恵は発揮されなかった。

防衛費増額の決定を受けて、岸田内閣の支持率は急落した。12月17、18両日の毎日新聞の世論調査では、内閣支持率が25%で、11月から6ポイント下落。不支持率は69%で7ポイント上昇した。同時期の朝日新聞の調査でも、支持率は31%で11月から6ポイント低下、不支持率は57%で6ポイント上昇した。

両調査とも、支持率は岸田内閣発足以来、最低となった。防衛費増額には一定の理解があるものの、説明不足を指摘する意見が多数を占めている。

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