「どうする家康」信長、秀吉になかった堅牢な決断 本質は狸ではなく泥臭く考え抜くアンチヒーロー

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その点、家康はつねに現実的で、なおかつ「失敗」しない、「一か八か」の賭けをせず守り切りながら成長していくという意思決定方法は、われわれの暮らしにおいても学べる部分が多いでしょう。

しかしながら庶民にとっては、家康はあまりにも「現実的」で意思決定にも爽快感がありません。つまり「憧れ」を抱くようなヒーローではないのです。

家康は超人でなく、われわれと同じ人間である。それが家康という人物の評価が、信長や秀吉と一線を画す要因なのでしょう。

新しいヒーロー像を見出せるか

つねに自分ではコントロールできない状況の中で意思決定を迫られ、苦渋の決断を行う。家康は経営者だけではなく、今を生きるわれわれと同じように幾多の悩みにぶち当たってきました。まさに「どうする?」の連続です。ただ、家康の凄みは、そんな究極の「どうする?」の意思決定で一度も決定的なミスを犯さず、徳川家ばかりか日本に265年の長きにわたる平和を築いたことです。

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信長も秀吉も最終的には決定的な判断ミスを犯しました。信長は明智光秀という部下を見誤り、本能寺で非業の死を遂げましたし、秀吉は朝鮮出兵という大きな判断ミスを犯し、政権の弱体化を招き、それが豊臣政権の崩壊の大きな要因となりました。

自分で状況を支配する力を持つヒーローは、やがてその強大な力ゆえ、その力をコントロールできなくなり滅んでいく。信長や秀吉だけでなく、歴史はヒーローの最期を雄弁に物語っています。彼らの真逆にいる、いわばアンチヒーローともいえる徳川家康こそ、これからの時代を生き抜くわれわれにとっての真のヒーローなのかもしれません。

つねに「どうする?」と自分に問いかける。その習慣こそが、われわれを違う場所に連れて行ってくれる鍵を握っているのではないでしょうか。

眞邊 明人 脚本家、演出家

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まなべ あきひと / Akihito Manabe

1968年生まれ。同志社大学文学部卒。大日本印刷、吉本興業を経て独立。独自のコミュニケーションスキルを開発・体系化し、政治家のスピーチ指導や、一部上場企業を中心に年間100本近くのビジネス研修、組織改革プロジェクトに携わる。研修でのビジネスケーススタディを歴史の事象に喩えた話が人気を博す。尊敬する作家は柴田錬三郎。2019年7月には日テレHRアカデミアの理事に就任。また、演出家としてテレビ番組のプロデュースの他、最近では演劇、ロック、ダンス、プロレスを融合した「魔界」の脚本、総合演出をつとめる。

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