村上:2002年に、当時17種類のクラゲ展示で世界一のモントレー水族館(アメリカ)に、後の副館長を視察に行かせました。当時は、モントレーが「帝国ホテル」なら、加茂は「犬小屋」レベルほどの格差がありましたが。
遠藤:普通なら、「そんなお金持ち施設とは戦えない、世界一は無理だ」とあきらめてしまいそうですね。
村上:ええ、ただ副館長は違いました。「展示種数なら勝てる」と逆に燃えたのです。そして約3年後に、20種類の展示に成功し、世界一を実現してくれたわけです。
ノーベル賞効果は“三重苦”のおかげ!?
遠藤:ノーベル賞受賞効果で、加茂フィーバーが起きた話も聞かせてください。
村上:2008年に下村脩先生が、水中で光る「オワンクラゲ」の蛍光タンパク質の研究で、ノーベル化学賞を受賞されたんですね。そのとき、日本でオワンクラゲを飼育展示していたのがウチしかなくて、来館者がドッと押し寄せました。
遠藤:村上さんの、「水族館に人を呼びたい」という思いが通じたんですよ。
村上:受賞を知って、面識もないのに私から祝電と手紙を差し上げたのです。手紙には、「飼育中のオワンクラゲが光らないので、できれば光らせる方法を教えていただきたい」とも書き添えました。そしたら、米国在住の下村先生から国際電話をいただき、その方法を教えてくださったのです。
遠藤:でも、「ダメでもともと」と、村上さんが祝電と手紙を出されたことが、その奇跡を呼び込んだわけですよね。やはり、現場のトップが「自分たちができることは全部やる」という姿勢をつねに見せることは、現場の士気を高めますよね。
村上:クラゲが光ったおかげで、来館者数がさらに増え、開館45年目でオープン時の年間20万人に迫る勢いでした。ただ、下村先生が電話をくださったのは、私が手紙に書いた「<老朽・弱小・貧乏>の3拍子そろった水族館」などの言葉に、「じゃあ、少し助けてやろうか」と思ってもらえたのではないかな、と考えています。
遠藤:「クラゲに特化」し、「創意工夫を重ねる」ことで、予算もない中、V字回復を遂げた奇跡のストーリーを、今回は伺いました。次回は、加茂水族館が大人気になった成功へのカギを、「クラゲを食べる」「魚の調理法も水槽に展示する」など、「3つの非常識」をキーワードとして、話していただきたいと思います。
(構成:荒川 龍、写真:梅谷秀司)
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