村上:その後も、近くの海でクラゲを捕ってきては、試行錯誤を続けました。すると水槽の水を動かしたほうがいいとわかり、エアー注入パイプを入れるなどの工夫を重ねました。
遠藤:まずは、できることを実践しながら創意工夫するのが、現場力の基本ですからね。
村上:翌1998年に、5種類のクラゲの展示に成功したところ、年間の来館者が2000人増えました。わずか2000人ですが、経営がドン底の頃から、自分たちの力で初めてお客さんを増やせたわけです。それ以降、「ウチの未来はクラゲにしかない」と腹をくくることができました。その2年後に12種類展示して、日本一になれました。
遠藤:閉館目前の水族館には、「努力を惜しまない現場の職員」と「クラゲ」がいたわけですね。
職員に3500万円分の経験をさせる上司力
遠藤:2011年震災の年、春に向けて、設備投資をしたことがあるそうですね。
村上:来館者数が増えたので、そのおカネでクラゲの展示をさらに充実させるべく、工事費込みで3500万円の投資をしました。具体的には、1500万円分の大小さまざまの水槽20個を、役所的な手続きをすっ飛ばして購入したのです。
遠藤:そんなに大量の水槽が、なぜ必要だったのですか?
村上:クラゲの種類によって、水槽の寸法の違いで飼育できたり、できなかったりします。担当者が試行錯誤しながら経験値を増やすしかありません。新館の建設計画決定後は、そこで失敗しないためにも避けられない関門だと考えました。
遠藤:一見、「設備」に投資しているようで、実は「人」に投資していらしたのですね。しかし、それが市側と衝突する原因にもなったわけですね。
村上:そうです。私の館長としての決済権は、本来は50万円までです。しかし、役所の決済を待っていたら、いつまで経っても前に進まない。そこで役所の手続きをすっ飛ばして購入を進めました。ただ、私も市が100%出資した開発公社職員ですし、市のルールを破ったのは事実なので、辞表を出して、自宅で数日間は草むしりをしていました。
遠藤:館長が進退を懸けて、職員のみなさんに経験を積ませようとしたわけですね。誰にでもマネできることではないし、職員の方々をも奮い立たせるリーダーシップですね。
村上:経験はおカネでは買えませんから。
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