クラゲが救った"三重苦"水族館、奇跡の物語 ギネス認定!「クラゲ世界一」の成功秘話

✎ 1〜 ✎ 5 ✎ 6 ✎ 7 ✎ 最新
著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小
ギネス認定世界一のクラゲ展示種数を誇る、加茂水族館の展示室。常時35種類以上のクラゲを見ることができる

村上:最初はまったくの偶然でした。1997年ごろ、珊瑚礁の水槽に白い泡のような生き物が発生したのを、ある職員が見つけたのです。それでエサをやり続けたところ、3センチ弱の「サカサクラゲ」に育った。「だったら、展示してみるか」となったわけです。

遠藤:すると、すぐに人気が出たのですか?

村上:ええ、お客さんがクラゲの水槽で足を止めては、歓声を上げてくれたのです。私はうれしくなって、泳がないクラゲを、水槽の裏から手で水をかき回して“泳がせて”みせたりしました。

遠藤:館長自らが手で水をかき回して”泳がせて”いたのですか。予算がない中で、できることを必死にやられたわけですね。

村上:ええ。入館者数が年間9万人を割り込めば、閉館せざるをえないほど追いつめられた状況でしたので。

職員総出によるクラゲ生け捕り作戦

遠藤:サカサクラゲが人気者になった後、展示種類は順調に増えていったのですか?

村上 龍男(むらかみ たつお)
1939年、東京都生まれ。山形大学農学部(応用動物学専攻)卒業。メーカー勤務を経て鶴岡市立加茂水族館勤務。1967年から館長として水族館の再生に力を注ぎ、2012年にはクラゲ展示種数世界一へ。2015年月3月末で館長を退任。

村上:いや、現実はそんなに甘くありませんでした。今思えば、最初の「サカサクラゲ」はたまたま飼育が簡単な品種で、魚用の水槽でも飼えただけなのです。実は当時も今も、クラゲの生態はまだよくわかっていない部分が多く、非常に飼育・繁殖が難しい生き物なのです。

遠藤:研究者の間でも、まだ解明できていない謎も多いようですね。

村上:ええ。だから、「サカサクラゲ」の後、職員総出で水族館前の海でクラゲを捕っては魚用の水槽に入れたのですが、どれも2週間程度で次々と死んでしまいました。

遠藤:クラゲを捕まえることはできても、育てることが難しい、それほどクラゲは飼育・繁殖が難しい生き物なのですね。

村上:今では、私たちの成功を見た中国の水族館などから視察の人が大勢来るわけですが、巨額投資してクラゲ水族館を作ろうとしても、なかなかうまくいかないのです。クラゲを集めることはできても、飼育・繁殖に成功できないので。

遠藤:クラゲの飼育・繁殖に「職人レベルの深い技術」が必要だということは意外に知られていませんね。逆にいうと、だからこそ、「クラゲ水族館」には日本の現場力の強さが表れているともいえますね。

次ページドン底の頃から初めて増えた2000人
関連記事
トピックボードAD
ビジネスの人気記事