村上:最初はまったくの偶然でした。1997年ごろ、珊瑚礁の水槽に白い泡のような生き物が発生したのを、ある職員が見つけたのです。それでエサをやり続けたところ、3センチ弱の「サカサクラゲ」に育った。「だったら、展示してみるか」となったわけです。
遠藤:すると、すぐに人気が出たのですか?
村上:ええ、お客さんがクラゲの水槽で足を止めては、歓声を上げてくれたのです。私はうれしくなって、泳がないクラゲを、水槽の裏から手で水をかき回して“泳がせて”みせたりしました。
遠藤:館長自らが手で水をかき回して”泳がせて”いたのですか。予算がない中で、できることを必死にやられたわけですね。
村上:ええ。入館者数が年間9万人を割り込めば、閉館せざるをえないほど追いつめられた状況でしたので。
職員総出によるクラゲ生け捕り作戦
遠藤:サカサクラゲが人気者になった後、展示種類は順調に増えていったのですか?
村上:いや、現実はそんなに甘くありませんでした。今思えば、最初の「サカサクラゲ」はたまたま飼育が簡単な品種で、魚用の水槽でも飼えただけなのです。実は当時も今も、クラゲの生態はまだよくわかっていない部分が多く、非常に飼育・繁殖が難しい生き物なのです。
遠藤:研究者の間でも、まだ解明できていない謎も多いようですね。
村上:ええ。だから、「サカサクラゲ」の後、職員総出で水族館前の海でクラゲを捕っては魚用の水槽に入れたのですが、どれも2週間程度で次々と死んでしまいました。
遠藤:クラゲを捕まえることはできても、育てることが難しい、それほどクラゲは飼育・繁殖が難しい生き物なのですね。
村上:今では、私たちの成功を見た中国の水族館などから視察の人が大勢来るわけですが、巨額投資してクラゲ水族館を作ろうとしても、なかなかうまくいかないのです。クラゲを集めることはできても、飼育・繁殖に成功できないので。
遠藤:クラゲの飼育・繁殖に「職人レベルの深い技術」が必要だということは意外に知られていませんね。逆にいうと、だからこそ、「クラゲ水族館」には日本の現場力の強さが表れているともいえますね。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら