一気に大緩和?中国・ゼロコロナ政策撤廃の現実 音楽家ファンキー末吉が経験した緩和直後のドタバタ劇

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酔いも覚めてしまったので帰ろうと、北京の院子の同居人に連絡を取る。院子というのは中国伝統的な長屋式住居で、1つの庭(院子)を囲むように三方、もしくは四方の建物が建っており、院子を共有してそれぞれの棟は独立して緩い共同生活を営むという、友人と暮らすなら願ってもない生活環境である。

北京市内には、今ではこういった伝統的住居はなくなってしまい、すべて高層マンションになってしまったが、郊外などの辺鄙な場所にはまだ残っていて、私が住む院子も市内から30キロメートルほど離れた村の中にある。

連絡をしてみると、同居人は「村にはタクシーの乗り入れもできなければ、この村の住人である証明書(出入証)がなければ入れない」というのだ。もう緩いのか厳しいのかわからないゼロコロナ政策。あるところではとてつもなく厳しく、あるところではとてつもなく緩い。

「早く帰ってきてうつしてよ!」

その日は友人宅に泊めてもらい、翌朝冷静になって考えてみて怖くなった。たとえマスクをしていたとしても、感染者と一緒に丸1日スタジオにいて、その後は感染者の同居人と一緒にマスクを外して酒を飲んでいた私は、普通で考えると当然感染しているのではないか。

少なくとも濃厚接触者であることだけは確かである。ほんの最近までなら、これだけで隔離施設行きである。私はもうすでに6回の隔離を経験していて、病気よりなにより隔離が怖い。また、もし感染していたとしたら、今度は人にうつしてしまうのが怖い。とくに一緒にバンドをやっているメンバーに、である。

スマホをみると、ちょうどバンドのメンバーによるグループチャットでは、感染についていろいろと面白おかしいやり取りがされていた。北京のスタッフに対して、「北京は大変なの? じゃあ、なんか菌が付いているのを郵送してよ」とか何の冗談なのかよくわからない。私だけ大真面目に前日のレコーディングの話をして、「このまま北京に滞在して様子を見ようか?」と提案してみる。

ところが、シリアスになっている私をよそに「イエィ!!」と盛り上がっている。「Funky、早く帰ってきてうつしてよ」とか「Funkyはぼくらの救世主だ」といったメッセージが来て、まったく訳がわからない。こちらは「とりあえず銀川に帰ったら1週間ぐらいは自主隔離かな」と思っていたのに、「じゃあ、火曜日のリハが終わったらみんなでFunkyを囲んでメシに行くからな!」と大盛り上がり……。

過去のチャット履歴を見ると、どうやらどこかのバンドのメンバーが感染してツアーが中止になったらしい。布衣楽隊の冬のツアーは本来ならもう始まっている予定だったが、2022年11月のゼロコロナ政策による締め付けのため、2023年1月から開始となった。だから、この12月の間にできればメンバー全員感染しておきたいのだ。

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