有料会員限定

正論が多様性を排除する「SNS言論空間」のひずみ 哲学者・國分功一郎「ゆっくり思考する時間必要」

✎ 1〜 ✎ 3 ✎ 4 ✎ 5 ✎ 最新
著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

有料会員限定記事の印刷ページの表示は、有料会員登録が必要です。

はこちら

はこちら

縮小

学者、文化人、そして経営者。世界と日本の知性は、未来をどう展望するのか。「2023年大予測」特集のインタビューシリーズから抜粋。

哲学者、東京大学大学院教授 國分功一郎氏
SNS上の言論空間が広がる中、人々の思考はどうなっていくのか (撮影:尾形文繁)

特集「2023大予測|スペシャルインタビュー」の他の記事を読む

ウクライナ、気候変動、インフレ……。混迷を極める世界はどこへ向かうのか。12月19日発売の『週刊東洋経済』12月24-31日号では「2023年大予測」を特集(アマゾンでの購入はこちら)。世界と日本の政治・経済から、産業・業界、スポーツ・エンタメまで108のテーマについて、今後の展開とベスト・ワーストシナリオを徹底解説する。この記事は本特集内にも収録しています。

ツイッターを中心とするSNS上の言論空間は、現実社会に多大な影響を与えるようになった。人々は大量の情報を浴びながらも多忙の中でじっくりと思考する時間を失っている。今後、言論空間や人々の思考はどうなっていくのか。東京大学大学院の國分功一郎教授に話を聞いた。

言い返せない世の中になっている

週刊東洋経済 2022年12/24-12/31【新春合併特大号】(2023年大予測 108のテーマで混沌の時代を完全解明!)
『週刊東洋経済 2022年12/24-12/31【新春合併特大号】(2023年大予測 108のテーマで混沌の時代を完全解明!)』(東洋経済新報社)書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします。

──ここ数年の私たちの行動や考え方の変化をどうみていますか。

コロナ禍で起こった行動や思考の変容がまったく新しいものだったかというと、違うように思う。それまでの社会にもジンワリとあった傾向が、パンデミックというきっかけを得て強力に加速した。

不要不急という言葉は他人との接触の回避を急激に推し進めた。これは例えば、健康を害するだけで生きていくために必ずしも要らないと見なされていたたばこ、酒、砂糖などの嗜好品が強く避けられつつあったことの延長線上で捉えることができる。

ある意見に対する社会の反応についても、同じことがいえる。メジャーな価値観に基づく正論によって、批判されうる意見がどこまでも排除される。その傾向が以前よりも強まった。例えば、以前は嗜好品を悪と捉える傾向に対して、多少の反発が可能だったが、「健康を何だと思っているんですか」と言われれば何も言い返せない世の中になってしまっている。

外食産業や夜の街がコロナ禍で窮地に追いやられたこととも関係するように思う。それらの業態は確かに「不要不急」だったかもしれない。しかしそこには、余計だからこそ生まれる豊かさや人を救う力があった。多様性を受け止めていたそれらは、コロナ禍で真っ先に切り捨てられた。

次ページ脱対面化は決定的な閾値を超えた
関連記事
トピックボードAD