学者、文化人、そして経営者。世界と日本の知性は、未来をどう展望するのか。「2023年大予測」特集のインタビューシリーズから抜粋。
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鉄鋼業界にとって2022年は、ウクライナ戦争や中国経済の減速で世界的に鋼材需要が低迷する一方、主要原料の原料炭(石炭)の価格が急騰するなど厳しい事業環境だった。そうした中、日本の鉄鋼大手は価格転嫁を進めることで業績も健闘した。過去と何が変わったのか。2023年はどうなるのか。JFEホールディングスの柿木厚司社長に聞いた。
「量より質」へ転換する鉄鋼業界
――2022年はどういった1年でしたか。
鉄鋼業界はコロナ禍からの回復が比較的早く、2021年度の決算は非常に良かった。当初は2022年度も同じようにいけるかと思ったが、ウクライナ戦争を契機に景色が変わった。原料炭価格はロシアからの供給が途絶えたことで4~6月に1トン当たり520ドルを超えた。それでも前半は国内需要が堅調で価格転嫁が進んだ。
だが、後半は自動車の減産が続き、急激な円安も逆風になった。中国はゼロコロナ政策の影響で需要が落ち込んだ。中国輸出はそれほど多くないが、顧客の中国ビジネスに影響が出ている。
――生産量が減少し、海外の市況も落ち込んだ割に業績は健闘しています。おそらく数年前なら赤字に転落していました。
量から質への転換をしたことが効いている。質への転換が完了するのは2023年9月に京浜(川崎市)の上工程(高炉など)を止めた後だが、すでに販売施策は質重視になっている。これまでは量を追って生産設備をフル稼働してコストを下げるという行動様式だった。
――量を追わざるを得なかったのは、過剰な国内生産能力があったためですが、2020年に日本製鉄、JFEとも高炉を含む国内生産設備の削減を打ち出しました。長年指摘されてきた課題の解消に踏み切ったきっかけは何でしょうか。
2019年度に大きな赤字を出し、フル生産が結局収益を生まないことを反省したのが転機となった。フル生産でもそれなりの対価を得ないと収益は上がらないと。
将来的に日本の鋼材需要は落ちていく。そうなると、高級品は良いとしても中間的な製品は、中国、インド、東南アジアとの価格競争になる。高付加価値シフトを進めるうえで、それに見合った生産規模はどれぐらいかと考えた結果、弊社なら京浜の上工程を止めて生産能力を400万トン減らすシナリオになった。
――2021年には日本製鉄がトヨタ自動車に供給制限も辞さない覚悟で値上げを勝ち取り話題となりました。
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