【特集・新国家安全保障戦略のリアル(第3回)】
ウクライナ侵攻で見られるウクライナ軍の戦術的勝利には多くの要因が考えられる。筆者はその要因の1つとして、ウクライナ軍が先進技術や最新の装備品(先進技術等)を比較的うまく組織全体に「実装」できていることを挙げる。
本稿では、ウクライナ侵攻の教訓を通じ、先進技術の組織全体への実装が安全保障分野でも重要であることを述べるとともに、人工知能(AI)を用いた新しい戦い方に対応するために、わが国が考えるべきことについて述べる。
先進技術等の「実装」度の差が表れた
ウクライナ侵攻においてウクライナ軍は、先進技術等を活用した非対称戦がロシアのような大国にも通じうることを明らかにした。ウクライナの最新地対艦ミサイル「ネプチューン」の攻撃はロシアの巡洋艦「モスクワ」を撃沈した。
また、高機動ロケット砲システム「ハイマース」を含むアメリカから提供された装備品は、ウクライナ東部ハルキウ州の大部分の奪還に貢献したとされる。先進技術等を活用した長距離からの精密誘導攻撃は、独立・分散・強靭な小規模戦力による非対称戦を実現させている。
しかし、ウクライナ侵攻では先進技術等だけではなく、先進技術等の軍への「実装」度、すなわち組織全体が先進技術等を効果的に活用できているか、についても着目すべきである。
本侵攻は組織文化などの定性的な要素が、先進技術の実装度に影響を及ぼしうることを浮き彫りにした。ウクライナのシンクタンク「ウクライナ・プリズム」のハンナ・シェレストは、2014年のクリミア侵攻以降のウクライナ軍変革の成果の1つとして、NATO基準の採用による下位レベルのリーダーシップ改善を挙げる。
2014年のクリミア侵攻ではウクライナ軍は中央の指示を何日も待つことがあり、軍は極めて鈍重だった。ウクライナはその教訓を踏まえて兵站、通信、部隊運用と訓練にNATO基準を導入した。ウクライナ軍は西側諸国と同様に下位レベルでのリーダーシップを重視した部隊運用を導入し、訓練を繰り返した。結果、ウクライナ侵攻では現場指揮官による自発的な活動を可能にした。
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