シェレストによると、ロシア軍は中央集権的な階層型組織であり、下級将校への権限移譲に消極的な組織文化であるという。また、ロシア軍は上級将校の割合が高く、将官がより多くの機能を発揮する場合が多い。そのため、将官が攻撃を受け指揮系統が混乱した場合、自発性に欠け作戦指揮能力に劣る下級将校が率いる部隊は行動不能に陥るという。
また、ウクライナ軍は商業衛星通信やNATOのセキュアな戦術通信システムによる安全かつ安定的な通信の維持に成功している。ウクライナ軍は民生先進技術も積極的に活用し、ドローンを用いた攻撃や近距離ISR(情報収集・警戒監視・偵察)、AIを活用した公開情報の収集・分析(ロシアのSNSやラジオからの情報分析)も実施している。これらはウクライナ軍に前線での的確な状況判断を可能にしたという。
ウクライナ侵攻について現時点で評価することは難しい。しかし、開戦当初は兵器の質と量で優っていたロシア軍が、組織文化などの定性的な要素により能力を発揮できていない可能性があることを複数のシンクタンクが指摘しているのは事実だ。
対するウクライナ軍は西側諸国の支援を得つつも、先進技術等をロシア軍と比較して効果的に活用できていると言える。このように、先進技術等の組織への実装度の差が安全保障分野においても影響を与えうること、そしてそれは組織文化のような定性的な要素に左右されうることは否定できない。
各国は軍組織への先進技術の実装を模索
一般的に、軍組織は先進技術の実装が難しい。ウイリアムソン・マーレーとピーター・マンスール編著の「軍組織の文化」において、軍組織は特に文化的に進化するのが遅いことを指摘している。武力紛争に関与する組織にとって、実績ある戦法や信頼できる技術の根本的な変更は壊滅的な結果をもたらす可能性があるからだ。
軍組織にとって変化は潜在的に危険でコストがかかるものとなる。そのため、軍組織はよほど強い圧力を受けない限りは一貫性を堅持する組織文化に従い、変化に対し弾力的に元に戻ろうとし、鈍重でさえあるとする。ウクライナ軍は2014年のクリミア侵攻という強い変化の圧力があり軍の変革を可能としたが、ロシア軍はそのような機会を得られなかったと言える。
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