新首位企業は、相手のレーダースクリーンに映ることなく、いつの間にか首位に立っている。
新首位企業は、旧首位企業からの強烈な反撃を喰らうことがないので、まるで無血革命のように首位交代が実現する。派手さはないが犠牲を払わないで済むという点で、エレガントと表現しても許されるのではないだろうか。
ホンダはどのように東芝から首位を奪ったか
この戦法を象徴するケースとしては、一般用エンジン発電機を挙げておきたい。
まず一般用エンジン発電機の市場分類を確認しておこう。
上位分類として、重電機器という大きな項目があり、これは回転電気機械と静止電気機械に分かれる。
前者の回転電気機械は、直流機と交流機と電動機に分かれる。
このうちの交流機がタービン発電機とエンジン発電機に分かれ、後者のエンジン発電機が一般用と舶用に分かれる。一般用エンジン発電機は、前者の一般用と一致する市場区分となる。
内燃機関から取り出した回転軸で交流発電機を回すことによって電気を供給する機器のうち、船に設置しないものと考えればよい。
一般用エンジン発電機の市場を長らく支配してきた東芝は、重電機器全般を手掛けるメーカーで、顧客の電力会社とは、別の市場区分で密接な関係を築いていた。
顧客の電力会社が発電所に非常用電源を設置する必要に迫られていると知り、一般用エンジン発電機の事業化に踏み切ったものと思われる。
事業化と言っても、手持ちの発電機に少し手を加えて流用するだけなので、ハードルは低かった。
一方、エンジンメーカーの本田技研工業(ホンダ)は、東芝の製品や顧客に目もくれていない。川下の二輪車に搭載するエンジンとオルタネーターを流用して、新しい市場を創出しただけと受け止めているはずである。
現にホンダの製品はポータブルで、据置型の東芝の製品とは似ても似つかない。用途にしても、コンセントのないところで電球を灯すのが中心で、ホンダの製品を何台束ねても発電所全体を動かすに足るパワーはない。
同じ一般用エンジン発電機に分類されること自体が一種の方便なのであろう。
このケースを純化すると、ホンダは既に存在する東芝の市場から技術的な原理だけを借りてきて、それを異なるパッケージに落とし込み、まったく別の顧客に持って行ったことになっている。
製品にエンジンと発電機という二つの構成要素があり、東芝が一方(発電機)、ホンダが他方(エンジン)の構成要素を得意としていた点が好対照を成しており、それが事業立地の異なる解釈につながったようである。
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