しかしながら、手持ちの液晶技術をどう活かすかについて、それぞれが選択肢を持っていたことも事実である。
新たに生まれた液晶技術の出口、すなわち大画面据置型テレビの事業立地は、シャープの目論見どおり急成長していったが、それゆえに熾烈な価格競争を呼び込んだ。
参入企業の大半は赤字の山を築いただけで、逆転時点から10年後に事業継続するところは数えるほどもなかった。シャープは周知のとおり台湾企業に救済を仰ぐことになり、母屋を失った。
対するカシオ計算機は首位から転落したものの母屋を失っていない。結果的には正しい選択をしたことになっている。
液晶のケースに酷似するのは平版、またはオフセット印刷機械である。このケースでシャープに相当するのは三菱重工業、カシオ計算機に相当するのは小森印刷機械、そして大画面据置型の液晶テレビに相当するのは、新聞のカラー化をもたらしたオフセット輪転機である。
それに賭けて事業を海外へ拡大した三菱重工業は絶好調に見えたのも束の間、需要が一巡するや否や工場稼働率の維持に苦しむ羽目に陥った。ここでも「負けるが勝ち」の図式が成立している。
市場首位の逆転を狙う人へのアドバイス
ここで紹介した14ケースから言えるのは次のことである。
市場首位の逆転を狙う方々は、正面から短期決戦を挑むのではなく、ずらした事業立地に布石を打って、あとは狙いが成就する日の到来を気長に待つオプションを考えてみていただきたい。
事業立地をずらせば何でもよいのかと言えば答えはノーで、世の中に未だ存在しない事業立地を創造する意気込みを持ったほうがよい。
この戦略にネガティブな面があるとすれば、仕込みから刈り取りまで時間を要する点である。老舗の巻き返しと映るケースが多いのも、忍耐の為せる業にほかならない。
もし早く結果を出したいなら、仕込みの数を増やすことだろう。なお、ずらす先の事業立地は目立たないほうがよい。誰の目にも魅力的と映る事業立地は、往々にして戦略暴走の温床になる。
先人たちが語り継いできたように、急がば回れと心得たい。
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