いずれにせよ、このケースでホンダは事業立地を絶妙にシフトさせており、それは本シリーズ第1巻『高収益事業の創り方』で王道と判明した戦略パターンと何ら変わらない点が極めて興味深い。
低圧開閉器のケースもパターンは酷似している。
総合電機メーカーの日立製作所が発電所や変電所に設置する大型品を手掛けてきたのに対して、ベンチャーの立石電機は電子機器に搭載されるリレーの市場を立ち上げた。
いずれも電流を自由にオン、オフする役割を果たす点だけ共通しているが、製品は似ても似つかず、互いに競合する場面もない。ここでも立石電機が事業の立地を見事にシフトさせている。
占有率で勝っても、収益率で勝てないケース
以下の4ケースも、立地選択で逆転劇が生じたケースとなる。
液晶テレビジョン受信機(シャープがカシオ計算機を逆転、2003年)
騒音防止装置(日本碍子が石川島播磨重工業を逆転、1992年)
平版印刷機械(三菱重工業が小森印刷機械を逆転、1987年)
機械プレス(小松製作所がアイダエンジニアリングを逆転、1982年)
*年は、首位交代が起きた年を指す。
なぜ上記の10ケースと区別したかというと、クリアカットな逆転劇とは言い難いからである。占有率では確かに首位となったものの、収益率では勝者となれなかったということだ。「負けるが勝ち」の構図があると言えようか。
もちろん、製品群次元の収益率は開示されていないので、あくまでも最善の推量に基づくふるい分けと理解していただきたいが、ここで学ぶべき教訓は、とびついてはいけない新興立地が存在するという点である。
それを象徴するのは、液晶テレビのケースである。いまでこそ液晶テレビと言えば大画面の据置型が当たり前になっているが、逆転当時は草創期で、1インチ1万円の壁をまだ誰も破っていなかった。
そういう状況で、シャープが早々にテレビの液晶化宣言をして大画面据置型に舵を切ったのに対して、ポータブル機種に絞って液晶テレビ事業を展開してきたカシオ計算機は、そこに踏みとどまる選択をした。
両社の選択が分かれたこと自体は驚くに値しない。シャープがブラウン管テレビを手掛けてきて、カシオ計算機がブラウン管テレビを手掛けてこなかった経緯を認識すると、双方とも自然な意思決定をしただけと思えてくる。
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