本当に「上流階級」が民主主義を支配しているのか 「エリート」対「大衆」というストーリーの功罪

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グローバル化の問題点は「新しい階級闘争」を生み出した。アメリカの政治学者マイケル・リンド氏は、各国でグローバル企業や投資家と庶民層の間で政治的影響力の差が生じてしまったことがその要因だと指摘している(写真:racism/PIXTA)
グローバル化の問題点は「新しい階級闘争」を生み出した。新自由主義改革のもたらした経済格差の拡大、政治的な国民の分断、ポリティカル・コレクトネスやキャンセルカルチャーの暴走である。
アメリカの政治学者マイケル・リンド氏は、このたび邦訳された『新しい階級闘争:大都市エリートから民主主義を守る』で、各国でグローバル企業や投資家(オーバークラス)と庶民層の間で政治的影響力の差が生じてしまったことがその要因だと指摘している。
私たちはこの状況をいかに読み解くべきか。同書を『21世紀の道徳』などの著書で知られる気鋭の批評家、ベンジャミン・クリッツァー氏がレビューする。

「ポピュリズム」が誕生するプロセス

2016年のアメリカ大統領選挙でドナルド・トランプが当選したことは、アメリカ内外の人々に大きな衝撃を与えた。識者ですら、トランプの勝利を予想できなかったのだ。

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当時から現在に至るまで、トランプの当選を防ぐどころか予想することもできなかった民主党や「リベラル」を批判する声は相次いでいる。批判者たちが特に指摘するのは、民主党やリベラルが「傲慢」であるということだ。

大統領選当時、ヒラリー・クリントンがトランプ支持者たちに「人種差別主義者、性差別主義者、同性愛嫌い、外国人嫌い、イスラム恐怖症」というレッテルを貼りながら「嘆かわしい人」と表現したことは、彼女が敗北した一因だと見なされている。

また、弱者の味方であるはずのリベラルが、景気の低迷やグローバリズムの煽りを受けて失業した労働者の窮状を放置し続け、格差を是正するための政策も打ち出してこなかった、という批判も噴出した。

トランプ当選以後、民主党からもバーニー・サンダースが率いる「左派ポピュリズム」運動が登場したり、「ジェネレーション・レフト」の若者たちが格差是正・貧困対策を求めるようになったりしたことは、アメリカの政治や社会の潮流に大きな変化が起きたという事実を示している。

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