本当に「上流階級」が民主主義を支配しているのか 「エリート」対「大衆」というストーリーの功罪

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ポピュリズムとは、有権者を「大衆」と「エリート」に分けたうえで、後者を批判しながら前者の権利や利益を訴える運動である。

大衆を「労働者」と同一視して「大企業や資本家たちが大衆を搾取している」と主張すれば左派ポピュリズムになり、大衆を「国民」と同一視して「移民や外国資本が大衆の生活を脅かしている」と主張すれば右派ポピュリズムになる。

多くの知識人は、ポピュリズムを支持しない。エリートである自分たちはポピュリストから批判される対象であることのほか、ポピュリズムの前提にある「大衆vsエリート」の二項対立の図式が単純に感じられて知的に受け入れられないという点も影響しているだろう。

テキサス大学の公共政策大学院で教授を務めるマイケル・リンドの新刊『新しい階級闘争 大都市エリートから民主主義を守る』は、ポピュリズムの図式を堂々と擁護するという点で稀有な著作だ。本書で批判されるのは「新自由主義エリート」や「テクノクラート」であり、民主党・共和党双方の政治家や企業経営者のみならず、裁判所や専門技術者やマスメディアにも批判の矛先が向けられている。

「上流階級」が民主主義を支配する方法

本書で主に扱われるのは、現代のアメリカでは労働者階級の利益が徹底的に無視されている、という問題である。

平均的な労働者階級は、公的年金や医療費給付などの手厚い社会保障を支持しており、非熟練移民の大量受け入れには反対しており、伝統を守る穏健な文化保守主義を掲げている。一方で、上流階級のエリートたちは多かれ少なかれ市場を重視しており、移民の受け入れを希望していて、伝統を重視しない。上流階級は数としては少数派であるのに、実行される政策は彼らの意見を反映している。つまり、多数派である労働者階級の意見が政治に影響を与えておらず、民主主義が機能していない状況になっているのだ。

この事態の原因は、1970年代に始まった「上からのネオリベラル革命」である、とリンドは主張する。

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