インドネシア高速鉄道、「G20」試運転の舞台裏 発車後の映像は「録画」でも実際に列車は走った

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首都ジャカルタの都市鉄道整備に関しても、プロジェクトの具体化が一気に進んだ。日本の円借款供与が検討され、事前準備調査も終えているMRT東西線事業は、今年の5月から6月にかけて突如イギリスからの資金供与案が浮上し、その後の動向が注目されていたが、日本、イギリス入り乱れてのプロジェクトになることが確実となった。

G20に先立ち11月14日に開かれた閣僚級会談にて、インドネシア運輸省は日本、イギリスと書類調印をはたした。インドネシア側はブディ・カルヤ運輸相、ヘル・ブディ・ハルトノジャカルタ特別州知事代行が立ち合い、まず日本とは水嶋智国土交通審議官出席のもと「ジャカルタMRT東西線フェーズ1建設継続に関する協力覚書(MoC)」に、イギリスとはオーウェン・ジェンキンス在インドネシア英国大使立ち合いのもと「ジャカルタMRT協力建設に関する政府間意向表明書(LoI)」に調印した。

これによって、フェーズ1区間、ジャカルタ特別州内のカリデレス―ウジュンメンテン間(約32km)は当初の予定通り円借款が充てられる可能性が濃厚だ。一方で、ジャカルタ州外区間となるフェーズ2以降に対しては形式上、円借款供与に困難があるため、英国輸出信用保証局が資金を拠出し、別スキームでの整備になることが予想される。

ジャカルタMRT整備計画路線図
ジャカルタ都市鉄道(MRT)の整備計画図(筆者提供資料を基に編集部作成)

優先順位は韓国企業建設の区間?

さらに、開業済みの南北線ファットマワティ駅から東へ延びるフェーズ4、ファットマワティ―カンプンランブータン間(約15km)の建設に関しては、韓国の元喜龍国土交通部長官立ち合いのもと「ジャカルタMRT南北線フェーズ4の建設に関する基本合意書(MoU)」に調印した。事前準備調査は完了済みで、韓国企業を中心としたPPP方式での建設が検討されている。

これら3つの書面体裁の違いから、おおよその優先順序が見えてくる。効力の強さを鑑みれば、南北線フェーズ4の優先度が最も高く、次に東西線フェーズ1となる。運輸省は複数国から、そして国家予算投入にこだわらないインフラ開発協力の機会を得たことは、今回インドネシアがG20議長国となり、果たした大きな成果であると発表している。

2021年4月9日付記事「地下鉄延伸に黄信号『日本式インフラ輸出』の罠」でお伝えした、入札不調を繰り返しながらも建設中の南北線フェーズ2Aもようやく開業への道筋が見えてきた。

建設中のジャカルタMRT南北線フェーズ2
ようやく着工したMRT南北線フェーズ2のCP202区間。かつての路面電車のレールが露出している(筆者撮影)
ジャカルタコタ駅前
MRT南北線フェーズ2のCP203区間進捗に合わせ整備されたジャカルタコタ駅前(筆者撮影)

G20前日、岸田文雄首相はジョコウィ大統領と会談し、同事業へ879億1800万円を限度額とする円借款供与(日本タイド)を事前通知した。これで、未契約状態の残りの3パッケージ(軌道・通信・信号・車両・運賃授受システム)の入札も円借款で進められることになる。正式な調印は後日行うため詳細は明らかではないが、この金額には、車両基地を含むコタ以北のフェーズ2B区間の土木工事分も含まれている可能性もある。入札が順調に進めば、という前提条件付きではあるが、明確な開業時期も定かでなかったフェーズ2が大きく前進する。

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