大澤:僕はこう思うんですよ。西側・ヨーロッパというのは、1つの地政学的な単位ではなくて、ヨーロッパというものにわれわれが込めている理念であると。もちろんヨーロッパはその理念どおりには動いていないし、西側に搾取されていると思っている第三世界の国もたくさんある。
でもね、僕らの立場とすれば、プーチンはこのヨーロッパに込められている理念に対して攻撃していると見て、ウクライナもしくはヨーロッパを応援しているわけです。自由主義圏の理念を権威主義的な勢力に踏みにじられないために。
この戦争をただの地域紛争にしてしまうと、ロシアはその地域紛争の力関係の中で負けただけだということになってしまう。そうではなくて、この勝利は、最終的にはヨーロッパにインプライされている理念が勝ったという結末にしなくてはいけない。
われわれ日本は、地政学的にはヨーロッパじゃないけれども、理念としてのヨーロッパには参加できるわけです。というか、日本がウクライナやヨーロッパを何らかの形で応援するということは、ヨーロッパを地政学的な単位以上の理念に転換する意味があるんだと思う。
だから、そういう意味で勝利しなくちゃ意味がないんです。そうでなければ、仮にロシアにプーチンがいなくなっても、脅威は消えない。あるいは、ロシアはもっとひどいことになるだけだという感じがするんです。
「第2のプーチン」を出現させないために
橋爪:自由主義圏の理念を守るためにウクライナを支援するという点については同意しますが、大澤さんの言う脅威を残さないために、もっと現実的にプーチンがどう退場するのがいいかを考える必要があると思う。
プーチンの退場の仕方はいくつか考えられる。秘密警察がプーチンを見限る。ロシア軍がプーチンを見限る。その場合、宮廷クーデターによってプーチンが置き換わった場合は、秘密警察とロシア軍に都合がいいリーダーが出てくる。もっと優秀なプーチンが出てくるだけです。
そうすると、戦争では負けたとしても、問題は解決せず、今度はもっとうまくやろうという「新しいプーチン」が新しい紛争の種をまくことになる。このタイプはあんまり望ましくない。
大澤:そうですね。勢力が置き換わっただけで、基本の構造は何も変わらないし、周囲の国の脅威も消えませんね。