「孤独なプーチン」退場後のロシアが及ぼす影響 終戦後の振る舞い方、お手本となるのは「日本」

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橋爪:では、どういう力学で置き換わるのがいいかというと、ロシア軍が降伏する、プーチンやその後継者が降伏する、ロシア国民も「負けました」と思うというのが望ましい形だ。戦争で戦術核が使われ、ロシアがその反撃を食らうと、かなり速やかにこうなると思う。

けれど、ロシア軍は戦術核を使うことに賛成していないと思う。大体、軍人のほとんどは核兵器なんてものに対して反感を持っている。通常戦力で、自分たちの手柄で勝利を収めたいというのが軍人の本能です。

大澤:それはわかる気がします。核が好きなのは極右の政治家だけ。クレムリンと意見が合わないはずですよね。

日本の敗戦改革をロシアに生かす

橋爪:そうですね。さて、ロシアをうまく降伏させたとして、その後が問題だ。私が思うに、敗戦国を権威主義的な体制から西側の体制に組み替えることができた唯一の例は、第2次世界大戦後の日本なんだ。

日本の場合、天皇が降伏を決断し、日本軍が降伏したあと、連合国軍が軍事占領して、6年から7年かけて間接統治で日本の国内改革を行った。50万人もの連合国軍が日本に駐留してね。連合国の中にはソ連と中国も入っていて、ソ連と中国の了解の下に占領が行われたわけです。

そして、陸海軍は解体されたけど、内務省以下日本政府は全部生き残っていたし、財閥解体をされても日本企業は生き残っていて、占領政策、経済の再建、国内秩序の維持も基本うまくいった。天皇は裁判で処刑されず、国民統合の象徴として新憲法の中核に収まった。

そして、日本の国民はこれでいいと思った。権威主義的な体制はどこかに行って、西側の民主主義的な体制を迎え入れようと、日本国民は自分を再定義するということが起こった。この改革モデルは世界の教訓として生きるべきだと思う。

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これに匹敵することがロシアで可能ならば、ロシアの問題は解決すると思う。それにはどれだけの条件が必要か。

まずロシアが降伏すること。無条件降伏ならばいちばんいい。2番目に、EU、NATO全体が総力を挙げてロシアを軍事占領する。3番目に、ロシア政府は解体しないで、ロシアの現行秩序をそのまま使うこと。そして、ロシアは独裁者から解放されて、新しいロシアをつくるんだ、ロシアナショナリズムもあっていいんだと国民が思うこと。

4番目がいちばん難しいが、隣接国がそれに合意すること。トルコは大丈夫だ。イラン、中国の同意が得られるとは考えにくいので、このやり方は非常に厳しい。厳しいけれど、ロシアが核兵器やそれに匹敵するような化学兵器を使ってしまった場合は、中国も賛同せざるをえない可能性もある。

武器を支援するだけでなく、EU、NATOがここまで覚悟を固めないと、同じことがまた起こると思う。

大澤:なるほど。ヨーロッパがロシアに入り込んで敗戦処理をするということですね。理屈はわかりますが、日本の場合、いまだに敗戦処理の後遺症が残っていると考えると、ロシアでそれがうまくいくのかどうか、未知数ではありますね。ただ、われわれを含めて西側の国々は、第2のプーチンを出現させないという覚悟は必要だと思います。

(構成・文=宮内千和子)

橋爪 大三郎 社会学者、東京工業大学名誉教授

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はしづめ・だいさぶろう / Daizaburo Hashizume

1948年神奈川県生まれ。大学院大学至善館教授。東京工業大学名誉教授。『はじめての構造主義』(講談社現代新書)、『皇国日本とアメリカ大権』(筑摩選書)、『中国VSアメリカ』(河出新書)など著書多数。共著に『ふしぎなキリスト教』(講談社現代新書、新書大賞2012を受賞)、『おどろきの中国』(講談社現代新書)、『一神教と戦争』(集英社新書)など。

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大澤 真幸 社会学者

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おおさわ まさち / Masachi Osawa

1958年、長野県生まれ。社会学博士。千葉大学助教授、京都大学教授を歴任。2007年『ナショナリズムの由来』(講談社)で毎日出版文化賞、2015年『自由という牢獄』(岩波現代文庫)で河合隼雄学芸賞受賞。ほか『不可能性の時代』(岩波新書)、『三島由紀夫 ふたつの謎』(集英社新書)など多数。共著に『ふしぎなキリスト教』『おどろきの中国』『げんきな日本論』(講談社現代新書)

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