大澤:戦争がうまくいかないいら立ちから、プーチンは、場合によると戦術核兵器を使うかもしれません。
橋爪:もし戦術核を使ったら、アメリカを含め、西側がクレムリンに反撃する可能性もある。クレムリンには核兵器で攻撃されても何とかなる地下50メートルぐらいの核シェルターがあるので、通常弾頭による貫通は無理そうだし、戦術核でもプーチンを殺害するのは難しいでしょうね。
防御施設も頑丈だし、居場所もわからない。でも、戦術核を使うようなことがあれば、何としてもプーチンを排除する以外にないと思う。
孤立して友達のいないプーチンは、いずれ排除されるとは思うが、問題は、プーチンが排除された後、より望ましいロシア、より望ましい世界になるとは全然保証できないことです。その点について、大澤さんはどんなふうに見ていますか。
プーチン政権は打倒されるのか
大澤:戦力や戦術のほうはよくわかりませんが、プーチンに友達がいないのはそのとおりだと思います。ただ、友達のいなかったスターリンは結構元気に長く頑張った。プーチンが今やっていることは、そんなに深く過去をさかのぼらなくても、やはりスターリンには近いと思いますね。
スターリンもまったく友達がいなかったが、スターリン体制はある程度続いて、ソ連の基礎をつくりました。だから、プーチンも結構頑張るんじゃないかという見方も僕にはあります。
ただ、今度の予備役まで動員して訓練もろくにさせずに前線に送り込んでいることに、かなりの不満も出てきている。この戦争の最も望ましい終わり方は、ロシア国内から反対勢力が出て、プーチン政権が打倒されるという筋書きです。
橋爪:しかし、そううまくいかないと思うよ。主体性のない国民の中から政権を倒すような勢力が生まれてくるとはとても思えない。
大澤:いや、国民が自らの手で政権を倒したという、その物語の構造が重要なんですよ。僕はそうなっていくのがいちばん望ましいと思っています。
橋爪さんがおっしゃったように、プーチン退場後の世界を考えなきゃいけない。だからこそ終わらせ方が大事だと僕は思うんです。
今起きていることは、ロシアとウクライナとの戦い、それだけ聞けば、ローカルな紛争のようにも聞こえる。でも、この問題はローカルな紛争以上のものであって、解決もローカルな紛争以上のものにしなければならない。
つまり、これはわれわれを含めて西側の自由主義陣営の仲間は意外と少ないぞ、という問題にも関係してくる。というのは、プーチンは、この戦争において、われわれは西側・ヨーロッパによって抑圧されてきた第三世界の味方であるという一応大義名分を持っているわけです。
もちろんそれは表看板にすぎないわけですが。でも、実際問題として、第三世界のほうは西側・ヨーロッパに随分ひどい目に遭わされてきた気分もあるので、ロシアにそれほど恩があるわけでなくても、西側・ヨーロッパに味方する気分にはなれないんですね。だからどっちもどっちという構造になっている。
橋爪:なるほど。そういう構造はありますね。