人は、ある存在の意志によって、必然的にこの世に生まれてきたという考え方もあるけれど、通常的に考えれば、偶然生まれ、生き、偶然に死ぬということだろう。自分の意志で生まれてきた人はいないし、自殺以外、自分で死にたいという意志で死ぬわけではない。いわば、偶然と偶然の間で人は生き、だからこそ、必然を求めようと努力する。その努力こそが、人生を充実したものにするということになるだろう。人生の根底は、偶然が川の水のように流れているように思う。
「運命」について語った深夜の電話
昭和54年(1979)8月、松下幸之助から、夜中の1時頃に電話がかかってきた。
「別に用事はないんやけど。ちょっとイライラしてね。それで、電話したんや。まあ、疲れのほうは、大丈夫や。心配せんでええで。わしは、そう簡単に死にはせんよ。わしは、身体が弱かったからな。何度か、もうダメやなと思うようなことに出合ってきたけどね、その都度、不思議に生きぬいとるんや。
だいたいな、戰(いくさ)しとってな、矢玉が飛んでくる。そのなかで矢玉に当たる大将もおれば、同じようにしていながら、矢玉に当たらん大将もいるんや。わしは、矢玉に当たらんほうや。そういう運命というか、運が強いわけやな」
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