アラブ世界を動かす権力と富をめぐる争い
2003年のイラク戦争後、米軍占領下のイラクでは、民族・宗派間の激しい対立が起こり、多数の犠牲者が出た。大野氏の指摘する「富と権力の配分をめぐる争い」が大きな原因だった。
その過程を詳しく述べる紙幅はないが、現在のイラクは11年中の米軍戦闘部隊撤退が決まり、民族・宗派間の対立が鎮静化して、新生イラク共和国が始動している。石油利権を民族・宗派間の人口に応じて分配する「富の配分」で合意を形成したことが最大の要因ある。革命に成功したチュニジア、エジプトが「富と権力の再配分」で合意を形成し、新秩序を作るまでには時間がかかる。
レンティア国家は生き残れるか
最後に、米国がその動向に深い関心を寄せるバーレーン、サウジアラビアの動向を考えてみたい。両国にクウェート、カタール、UAE(アラブ首長国連邦)、オマーンを加えた6カ国はGCC(湾岸協力会議)を形成する。これらの諸国は米国にとって、軍事的(対イラン包囲網)・経済的(石油など)に非常に重要な存在である。いずれも王制の国で、スンニ派の王家(首長家)が国内のシーア派(バーレーン、クウェートでは多数派)を統治する。
石油を多く産出するサウジ、クウェートは代表的なレンティア国家である。レンティア国家は地代国家、分配国家とも呼ばれる。対照的な概念は日本や米国、欧州などの生産国家である。分配国家は石油収入を国民に分配し、基本的に国民から税金を集めない。
「代表なくして課税なし」が米国独立戦争のスローガンとして知られているが、レンティア国家は、「富を分配する、課税はしない、したがって代表(議会参政権)もいらない」という論理である。石油から得た富を王家が国民に分配することで、統治を正当化している。