アラブ世界を動かす権力と富をめぐる争い
民衆革命が広がるアラブ世界。原油価格や国際金融情勢に影響を与え、日本も対岸の火事ではない。エジプトではムバラク政権が倒れた後、軍が混乱をひとまず収拾した。実権を握る軍とムスリム同胞団など野党勢力が停戦状態にある。
今後、憲法改正、議会選挙、大統領選挙(9月までに実施)という段階を経て、新しいエジプトの秩序が形成される。その場合、軍がどの程度まで野党勢力に権力と利権を配分するかが最大の焦点になる。
米国が神経をとがらせているのはペルシャ湾の島国バーレーンの行方だ。バーレーンはサウジアラビアと密接な関係にあり、両国ともスンニ派の王家が統治する。王家がシーア派住民の不満をアメとムチで封じ込める点でも同じだ。もしバーレーンが倒れると、サウジアラビアにも波及する。サウジは最大の産油国だけに、その影響ははかり知れない。
多元的なアラブ世界の構造
アラブ連盟には22カ国が加盟する。アラブ人意識、アラビア語の使用、イスラム教という共通性がアラブ連盟のきずなになっているが、国ごとに政治体制(王制か共和制か)、西欧化(世俗化)の進展度、イスラム教影響力の度合い、経済体制(資本主義か社会主義か混合体制か)、宗派構成(スンニ派、シーア派など)などの組み合わせが異なる。
さらに部族の存在がある。近代国民国家は、国家と国民の間に存在していた血縁・地縁で形成された中間共同体(部族)を解体することで、国民を直接統治する。現在のアラブ諸国は、国家が部族を解体する段階まで到達していない。たとえばリビアには140もの部族があり、政権側、反政権側に分かれて戦っている。