「セレブな街」港区に埋もれる単身高齢者の孤立 正月三が日を「独りで過ごした」が3割超

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ドアを開けると、女性は廊下で動けなくなっていた。すぐに救急隊によって病院へ運ばれた。

この女性救出の陰には、相談員たちの数年越しの奮闘がある。

港区は2011年、積極的に地域に出向き、公的サービスにつながっていない一人暮らし高齢者の家を一軒一軒回る事業をスタートさせた。病気や生活困窮など、放置すれば事態が深刻化していくにもかかわらず周囲に相談する人がいなかったり、自ら支援を求めない高齢者に行政側からアウトリーチし、必要な支援につなげる試みだ。相談員が重視するのが「つながりの維持」。

「大丈夫」と支援を固辞

先の女性は、ゴミ出しをルールどおりにできなくなっていた。しかし本人は「大丈夫」と支援を固辞。そんな中、つながりを絶やさなかったのが地域の民生委員と相談員だ。

女性に配食サービスを提案したのも相談員で、本人は渋ったものの近隣の住民が「私も頼んでみるから、あなたも頼んでみれば」と背中を押すことで承諾した。この近隣住民も、やはり相談員との信頼関係が日頃からできていた人だ。

自宅に何度も通ううちに事業の趣旨を理解してもらえ、「何かのときに把握しておいて」と、緊急連絡先を教えてもらえることもある。

今回、80代の女性を救出できたのは、民生委員や近隣住民が本人の見守りを緩やかに維持し続けたこと、アウトリーチ事業によって親族の連絡先を把握できていたこと、異変があれば「ふれあい相談室」に連絡をしてほしいと近隣住民に認識してもらえていたことなどがうまくかみ合った結果だ。

コロナ禍で病院を避けていたこの女性は、救急入院をきっかけに主治医がつき、介護保険を申請することになった。相談員の働きかけが、支援につながった格好だ。

次ページ声なき声を拾うための「つながりの維持」
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